55.ミコトとヒメカ
ミコトとヒメカ
ヒドラの体に、マルマの力が余すことなく取り込まれた。それは既にヒドラによる精製も不要な程、純粋なものだ。そのため間も無くヒドラは出芽を開始しようとして、その体に七色の水疱を次々と浮き上がらせた。
「あれが、精製されたマナ。ヒドラの精が出芽しようとしている……」
「かつて、ヒメカがオロシアーナを自身から分離させたように、ヒドラはナナを出芽する」
ギラファはシンクロしているなっぴの記憶を紐解いていた。
「私にはなっぴの考えがわかる、でもその為になっぴは……」
「姉さん、らしくないわよ。いつだってなっぴはなんとかしてきたでしょう」
「でも、リンリン。いまここには戦えるもの、立ち上がれるものなどいない……」
ニジイロテントウの姉妹もまた、創造神ミコトとヒメカがオロシアーナをこの地に残した時の話を知っていた。
「ミコトの力もカムイの剣もすでにここにはない、それなのにあの娘は抑え込もうというのか、ヤマタノオロチに勝るほどの親ヒドラを……」
「いいえ、タオ様。オロシアーナは決してそれだけで生まれたのではありません」
「私もエスメラーダ人魚たちからそう、聞いております」
ミーシャとセレナがこの星の巫女として、タオに答えた。二人はヒメカとミコトの話をこう聞いていた。
ーヒメカは創五神のひとりとして、光と闇を併せもって産まれた。アマオロスの産んだ四神は光と闇を制御し、闇を制御することで生命体としての力を発揮出来る。光と闇、生と死はひとつのもの、決して切り離せない、優劣はないのだ。それを制御し正しく使えたのがミコト、マオ、まだ不安定なのがヒメカであった。ヒメカの闇を利用しようとしたのが、邪神として闇の力に目覚めてしまったオロチである。オロチはミコトとアマテラスの力により『根の国』に封印された。ミコトはヒメカの二分の一の光に惹かれ、二分の一の闇を恐れていたのだ。ミコトはその後、ヒメカの闇を封じることをアマテラスに誓い、ヒメカを妃に迎えたのだったー
オロチは納得いかなかった。アマオロスはヨミの力を受け継いでいた。それを分け与えてオロチ、マオ、ミコト、ヒメカを創った。オロチはヨミにもっとも近づいたと自負していた。
「わしは、ヨミ様にもっとも近いはずだ、アマテラスに『根の国』に落とされるいわれはない。必ず復活し、この星を創り直してやる」
やがてオロチの呪力は『根の国』からでもヒメカの闇を次第に操り始めた。
カムイに赤いツクヨミが上った夜のことだ。
「ツクヨミ様の力がクシナに注ぎ込まれていく、光り輝いていたツクヨミ様がその光を惜しむこと無くクシナに与えられていく。この星の全ての命を産み育てるために……」
ミコトはこの星の未来に安堵した。背後から人影が現れた。
「ミコト」
「ヒメカ? 変わりはないか?」
「ええ、今日は気分がいいので少し風にでも当たろうとここまで出て参りました」
しかしそれはヒメカの哀しい嘘だった。
「クシナに光の力を与え、ツクヨミ様もほら、すっかり冷えてきた、あの輝きも失われてきた様だな」
「あら、それだけじゃなくて、私たちのために、夜まで作っていらっしゃるのよ、ミコト」
「はっはっは、ヒメカはいつも面白いことを言うなぁ」
笑ってミコトはヒメカを抱き寄せた。