53.七色テントウの正体
七色テントウの正体
インセクトロイド・サクヤは、AI(人工知能)ではなかった。その入り組んだシナプスにサクヤの細胞が同化していく。しかしそれ故にゴラゾムを見つけられなかったと結論付けることがなかなかできない。
「もしかしたら、別の場所にいらっしゃるのかもしれない。この星に虫人たちが生き残っているはずなのに……」
塩水が体に侵食してもサクヤは七海を潜り、アガルタの地の果てまでゴラゾムを探し続けた。しかし、皮肉にもヒドラから逃れるために「リカーナ」の張った結界は頑丈だった。力つきようとするサクヤは最後の望みを「ナナ」に託す。
「ゴラゾム様の為に私が残せるものは、イブの生与の力、私の分身としてこの地に止まりなさい……」
レムリアと共に地球に着いていたヒドラ、はこうしてサクヤから「生与の力」を与えられたのだった。
そのナナの持つ「力」をなっぴは身にまとい、七色テントウの姿に変わった。しかし、ナナが現れる気配はしなかった。マイがもう一度なっぴに聞こえるように叫んだ。
「なっぴ、ナナが現れる。気をつけて、ナナはもう私たちの知っているナナではなくなっているわ」
「うん、マイ。あなたにもわかるのね、本当のナナがここに現れるのが」
「マンジュリカーナ、お前はついに最後の試練を迎えたのだな。しかしヒドラの本質は変わっていない、再誕させればお前の命さえ危ういと知っているはずだろう」
タオの言葉に、立ち上がった戦士が答えた。
「そのために、我らはここに再び残った。マンジュリカーナ、思うがままにヒドラを呼び戻すがいい」
ギリーバ、ガマギュラス、ピッカー、そしてガラム、ザラム、ゴラムたちが戦士のままで蘇ったのはこのためだったのだ。
「まさかお前たちだけで、行かせるわけにはいくまい」
キング、ラクレス、コオカ、エレファス、バイス、ドルクが立ち上がった。
「それはマンジュリカーナが許されませんな、皆の気持ちはこの私が受け取りましょう」
その声と共に現れたのは、ギラファだった。ハッと振り返る皆はギラファの右手を注視した。
「それは、まさかエレファスが封印していたという、ナツメの石か?」
ダゴスが尋ねるとギラファは大きく頷いた。その時天空から静かに舞い降りたものがあった。
「あれが、ヒドラなのか?」
「虫人を食らうなど、想像もできない姿だ」
誰しもそう思う、数秒ごとに鮮やかな光を放つヒドランジアの原型「ヒドラ」。その容姿は誰一人予想もしなかった少女の体だ。そんな少女がマンジュリカーナの前についに現れたのである。
「マルマ様の匂いがする、この星、この地だ。ようやく見つけた……」
やがてその背後からは、次々と触手が伸び始める。その数は八本、その先には花の蕾のような膨らみがある。強烈なマルマの匂いを感じて「それ」は大きく横に避け、鋭い牙を剥いたまま「七色テントウ」と化したなっぴに向かいゆっくりと揺らめいていた。
「まさに、ヒドラだ。マルマと同じくマナとヨミを混在したまま生まれた我が子……」
そのタオの言葉は、なっぴにしか聞こえなかった。




