52.カグマ・アグル・サクヤ
カグマ・アグル・サクヤ
ここは、「ゴリアンクス」
兄弟星「ルノクス」から戻ると、さっそく「ビートラ」は、ルノクスに不思議な力を持つ王女「リカーナ」がいたことを、幼馴染みの「サクヤ」に話した。
「サクヤ、サクヤ。待てったら!」
案の定、サクヤは機嫌が悪くなった。ゴラゾムがリカーナに心を奪われたことを知り、ようやくサクヤは自身の気持ちに気が付く。しかし、彼女は「ゴラゾム」をずっとしたっていたその気持ちを深く心の奥に沈めた。そしてサクヤは「シュラ」を破壊するため「インセクトロイド・サクヤ」の脳となる、その時までその心は誰一人知らなかった。
「リカーナの持つ力は、危険だ。もし『ヒドラ』が暴れ出したら、この星など跡形も残らないわ……」
サクヤは「ヒドラ」を知っていた。「ヒドラ」の存在は天才科学者「カグマ・アグル・サクヤ」が既に突き止めていた。「ヒドラ」もまた「神の子」の一人だった。サクヤは複雑な「リリナ」と「マルマ」の関係は知らない。ただ、王女「リカーナ」のその「力」は、亡き王の身体を使い「実体」と「限りある命」を手にした「マルマ」がもたらしたものであることは容易に結びついた。
「ヒドラは虫人のマルマに異常な攻撃性を持ち、それを捕食する。何故、何処からそして、いつからルノクスに住みついているのか、それは私にはわからない」
地下数千キロメートルごとにスキャニング可能な「念波」と、のちの「シリウス型エンジン」のエネルギーになる「ナノ粒子」(ーー「ニュー・トリノ」に似た極小の物質、細胞も自由に透過できるーー)を使った「透過望遠鏡」で「ルノクス」を調べたサクヤは、その八本の触手をもつ生き物を確認していた。そしてその生き物を「ヒドラ」と名付け、その行動を記録していた。虫人を残酷に貪り食べる様子は、彼らの過去の「捕食時代」に酷似していた。一人の虫人を食い尽くすと、しばらくはヒドラは休眠をとる。その休眠を覚ますのは、新たな虫人が生まれる際の「生命エネルギー」だろうという事までサクヤは推定していた。
「マルマの力を、封じたリリナは正しかった。しかし、それでも虫人はこのままでは減るばかり。『リカーナ』がいつか再誕の力を解放したら……」
だが、リカーナは「その力」をルノクスではそれぎり使わない。母と堅く約束していたのだ。
「リカーナ」の母「リリナ」の名は「サクヤ」も知っていた。同じ「サクヤ」の名を連ねる、その星の「イブ」の家系だ。ただ「イブ」に「王を選ぶ自由」はない。「王」にだけ「女王」を選ぶことが許されていた。虫人たちの王の命は極端に短かかった。もし、サクヤがゴリアンクスを離れなければ、ゴラゾムの弟王子「ビートラ」は「サクヤ」を「女王」に選んでいたかも知れない。
サクヤはゴラゾムの命を受け、シュラの回収に旅立ち「星間戦争」によって酷く傷ついた。長いその旅が終わろうとしたときにはあの美しい「サクヤ」はいなかった。死を決意した彼女が、ある星に置き去りにされていた「リリナ」を見つけた。その「リリナ」は「ダーマン」が作った「抜け殻」だった、彼女は回収した「リリナ」に「シュラ」の能力と自分の脳を移植したのだ。
「インセクトロイド・サクヤ」はこうして生まれた。