49.ギラファの挑戦
ギラファの挑戦
「ギラファは突然ゴラリアへやってきた。そしてわしにこう言った」
「王よ、その肩の重い荷物を頂こう」
「ギラファが何故、赤い翡翠のことを知っているのが不思議だった。しかし、わしはその申し出を断わった」
「断わった?」
テンテンがエレファスに尋ねた。
「既にそれは、わしの意思まで操ろうとしていたのだ、勿論自傷など出来ない」
「それで、ギラファ様は戦士のお姿に変わられたのですか?」
「そうだ、シルティ。でなければあいつもきっと捕食されていた、俺の中のヒドラにな……」
「何、ヒドラ? それに捕食だと!」
ラクレスが大声を出した。
「赤い翡翠はそのヒドラとどういう関係なんだ?」
コオカがエレファスに尋ねた。エレファスが話を続ける。
「ヒドラのことを知っているのはシルティとマイだけだろう」
エレファスは二人にそう確認した。
「私は七色テントウの精『ナナ』としてのヒドラしか知りません」
とマイが応えた。
「マイ『ヒドラ』とはマナとヨミが最初に産んだ生命体『ひからびた手首』の事なのよ」
シルティはマイにそう教えた。
「天と地が別れた頃の記憶をナナは私に見せてくれた。でも私にはわからない、私はなっぴのようにマンジュリカーナではないから、だけどナナはどこか寂しそうだった……」
頷くシルティは話を続けた。
「ナナはヒドラから出芽した陽の精なの。そしてヒドラの古い体はこの星の地中深くにもぐり消滅した」
シャングリラとヒドラ
神の子「ラグナ」を追ってルノクスに向かう途中、ヨミの手首とマナは溶け合い新たな生命体が生まれた。それが「ヒドラ」だった。しかしヒドラがラグナに出会うことはついになかった。ラグナはすでにリリナ・スカーレットと出会い、生殺与奪の力「ノア」と「バジェス」に変わっていた。時を置かず、ヒドラの「出芽」が始まる。出芽とは分身のようなものだ、新たな子にはマナが溢れている。親のヒドラにはマナとヨミが共存していた。
シュラから虫人を救うために地球に向かった「インセクトロイド・サクヤ」には、出芽したヒドラが着床していた。しかし地球に訪れたサクヤは、シュラの存在を感知できないまま消滅した。その時ヒドラから次に出芽した「陽の精」が「ナナ」、そして地球で消滅した親ヒドラこそ「シャングリラ」の正体だった。七つの海の人魚が「ベニクラゲ」のように再誕を繰り返したのもヒドラの力と無関係ではなかった。
「ヒドラは何度かその体の一部、あるいは出芽した姿をこの地上に現しておる……」
タオがゆっくり話し始めた。
「悪魔ヨミ、イト、カイリュウ、ヤマタノオロチのような邪神やナナ、サクヤ、ヒドランジアのような陽の精として」
「マンジュリカーナは?」
「彼女はマンジュリカの精、マナに近い存在だ」
マイがタオの言葉を遮る。
「でも、ヒドラが虫人を捕食するってどういうことなのですか?」
「ヒドラは八本の触手を使い、ついに虫人を捕食するようになってしまったのよ、マイ」
ラベンデュラがマイに話したのは、ナナの古い記憶の伝えた真実だった。