46.ビドル.2
ビドル.2
「何だその姿は、エレファスお前に何があったのだ」
「これは身から出た錆、しかしそれどころではない。すぐにでもあの舞いを止めさせるのだシルティ」
「それは叶いません、エレファス王」
シルティは首を振った。
「頑張れなっぴ」
ゲンチアーナが叫んだ。一心に巫女舞いを続けるマンジュリカーナは黒龍刀を体に取り込み、そしてふらつき始めていた。
「未だかつて、七龍刀を超える力を手にしたマンジュリカーナはいない、その先をあの娘は手にしようとしているのか……」
ムシビトを追って地球に現れた「悪魔」ヨミは、初代ビートラにより倒される。「ナツメの石」に封印されたヨミの意志はやがて四つにくだけた。その二つがカブトとマンジュの息子、「イオ」と「アギト」を狂わせた。マンジュリカーナによってカブトとともに「二つのナツメの石」も封印された。残った二つは長い年月の後に「赤い翡翠」となり「ラクレス」と「コオカ」を操った。王国を何度も襲ったこれらの危機、それはヨミの与えた虫人たちへの試練だった。
「虹のほこらの原石はその闇の力を浄化する事ができる。虹色テントウたちが人間界に出払った後、本当にもう闇は復活しないのか?」
ギラファはそれを懸念していた。彼は人間界でほんの一瞬ではあったが得体の知れない闇を見た、ビドルがマンジュリカーナを救った時の事だ。ギラファはその時、人間「なっぴ」を殺すつもりはなかった。
「何故、小娘を殺そうと思ったのか。あのとき俺を操ったのはラクレス王ではなかった……」
ギラファはその時に頭の奥で聞いた声を思い出したのだ。
「ギラファよ、今のうちにその小娘を殺してしまえ。必ず災いをもたらす、ひと思いに殺してしまえ……」
そのとき「ビドル」が「タイスケ」を寄り代にした、それはほんの一瞬、しかし見間違いではない。彼はそうそそのかす声がラクレス、あるいはコオカの声だと思っていた。だが違っていた、おそらく別のものだ。
「聞き違いでなければ、あの声は……」
なっぴがひどく傷ついたエレファスを見て声をかけた。
「わたしの舞いを止めようとしても無駄よ、エレファス。私は負けない」
今度は白い衣服で巫女舞いは続く、なっぴはすでに虫人の巫女の瞳をしていた。シルティの糸を紡ぎそれは大きな鳥の翼になり、なっぴの背に装着された。
白い翼を開きその羽毛から放たれるシルクの柔らかい光がエレファスの肩を包む、エレファスの肩も腕も再生を終えた。腰を下ろしエレファスが話し始めた。
「皆に話しておこう、わしがゴラリアの王として再び立ち上がった時の事だ」