45.傷ついたエレファス
傷ついたエレファス
「舞いが変わった、あの黒い糸はそうか、黒龍刀のものか」
「おそらく、そうでしょう。次元の谷の先住の虫人たちにまで、再誕の機会を与えるつもりでしょう」
ナノリアの王「キング」が「王子」とともにこの場に加わった。心配そうにゲンチアーナが言う。
「姉さん、なっぴはすでに体が持ちそうにないわ、黒龍刀の力はヨミ様の力に匹敵する。再び闇に取り込まれてしまうかも知れない、もう舞うのを止めさせて」
「それは駄目だ、リンリン。あいつが言った、必ず虫人たちを再誕させ、同じ次元で礼を言うんだと」
「リンリン、タイスケの言う通りよ、私にはなっぴの声が聞こえたわ。やるっきゃないってね」
「頭のねじがぶっ飛んでる。ヨミの力はこの星ひとつ砕くなんて造作も無いんだ」
「ザラム、ゴラム、ガラム。相変わらずだな、もっと素直になれんか」
「ダゴス、俺は事実を行ったまでの事。それでもあいつはやり遂げるだろうよ」
「ゴラム、お前もそう思うのか」
「まあな、きっとなんとかするだろう。それにギラファが言っていた通りかも知れない……」
「ギラファがなんと?」
「ひょっとするとあいつはマンジュリカーナ以上の力を得るとな」
ダゴスがそれを聞くとゴラムに尋ねた。
「ギラファと合ったのか?」
「ああ、石棺の中から何か見つけ出し、大急ぎでトビヤンマに乗っていっちまった」
「一体ギラファは何処へ向ったんだ」
「ゴラリア国のエレファスの所さ、シルティもそこへ行ったらしい。なあに心配は要らない、出発には間に合っている。「レムリア」の一部になっているはずだ。ところであいつはまだ現れないのか」
「まあ、そのうち現れるさ」
ガラムが真っ赤な触手の手入れをしながらそう言った。
「それだけ数があれば、磨くだけでも結構時間がかかろう、手伝おうかガラム」
「放っとけ、それよりお前はまだそんな槍をもっているのか、何に使うつもりだ?」
「あいつを守るためにな、お前たちもそうだろう、ピッカー、ガマギュラス」
そう言われた二人は、こう言ってうそぶいた。
「サイスがそばに無いと寂しいもんでな、なあピッカー」
「まあそんなところだ」
「お次の番らしい、見ろあいつの顔つきが全く変わってきた」
ゴラムが八つの目をくるんと動かした。白く強烈な輝きが当たりに広がる。それはまぎれも無く白龍刀の輝きだった。しかしなっぴの舞いはすでに舞いの形をなしていない、夢遊病のようにただふらふらと、くらくらとその場で回っているだけのものだ。ゆっくりと純白のしなやかな糸が、なっぴの体を支えるように包み込んでいった。
「シルティ、それにエレファス。その姿はどうした事だ……」
エレファスに肩を貸し現れたシルティの肩は真っ赤になっていた。エレファスは無惨にも左腕がもぎ取られていたのだった。