43.ビドル
ビドル
あれっ何かしら?」
上空から舞い降りるものがあった、決して華麗ではなく、飛行が苦手な事がすぐ解った。二匹の虫が虫人の体をさっそく取り戻した。
「ピッカー、抜け駆けはなしにしようぜ」
「パピィが、知らせてくれなかったら騙される所だった。王族以外は残れないって、よくも騙したな、ここでかみ殺してやろうかっ!」
ギリーバが大顎を開けた。パピイがギリーバの前をひらひらと飛び回る。
「やれやれ、ボクと同じだ、キミの事が心配なんだってさ」
「パピィ、パピィが戻ってきた!」
由美子のインディゴの服はそれまでとはまた違う力を発した。ヨミ族の末裔、先住民のなかでもダゴスを長とした黒の森の虫人はフローラ国と混じりあい、新たな虫人としての力に溢れていた。その力を体に蓄えるとなっぴはバイオレットキューに向いこう叫んだ。
「いにしえのもの、新しき魂、呼び起こしここへ集まらん。さらえ、斬」
なっぴの顔つきが一段と険しくなる
「ラクレス、マンジュリカーナはお前たちと一緒にこの星で暮らそうというのだろう。いやもしかしたらその先のことまで考えているのかもしれぬ。このわしにも解らん、その人間にでも聞くがよい」
タオの言葉に皆がタイスケを見た。彼を初めて見たものもいる、だが虫人たちには不思議と彼が持つ力に気付いていた。
「俺は、なっぴを古くから知っている。だがあいつは俺に、ここでただ黙って見ていろと言っただけだ」
「そうね、待ちましょう。なっぴがそう言う限り」
由美子がそう言うと、ドモンが思い出したようにつぶやいた。
「そう言えば、ギラファの姿が見えないが……」
ダゴスが笑いながら答えた。
「ギラファは研究熱心な男、ずっと気になっていた古文書を解読した。それを確かめに虹のほこらへと向った。おそらくデュランタたちと一緒だ」
「気になるもの、なんだそれは?」
初代ドルクがそうドモンに聞く。
「大臣もおっしゃっていた、きっとそれは『ビドル』のことでしょう」
「なんと、最後の精霊『ビドル』の事だと!」
話に割り込みラクレスが大臣に聞いた。
「大臣、ビドルとは本当に現れるのか……」
「空色シジミ、ニジイロテントウ、巫女アゲハ、ヒドラ、それを統べるマンジュリカとビドル……」
大臣の言葉にラクレスが真っ先に思い出したのは、人間界にギラファが行った時の事だった。ギラファはドルクに化身していた、そのときもう一人のドルクが現れたと言う報告があった。なっぴの命が危ない、その時の事だったという。なっぴの命を救ったのは何の力だったのかギラファには解らなかった。
「彼の元へ、赤いカブトムシが送還されたのは、王子が無事に羽化された時だ。だから今までは、私を召還出来なかった。長いこと苦労をかけたな『テンテン』」
テンテンを王国に連れ帰るために、とっさにギラファはそう嘘をついたのだった。