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なっぴの昆虫王国 イブ編  作者: 黒瀬新吉
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4.最大の敵

二人のコンビネーションはぴったりだった。なっぴが攻撃された時は、由美子の「アゲハの舞い」がシュラの体をそぎ、由美子に攻撃が向うとなっぴが打突をする。マナをこめた一撃はシュラの体をすこしずつだが、確実に破壊していった。


 やがてシュラの武器はひとつまたひとつと沈黙を始めた。残る武器は右の指から発射する赤いレーザー光だけになった。それをかわしながらなっぴはシュラにスティックの打突をくり返す。『自動修復』さえなければ、シュラの封印さえ必要ないかもしれない。だがそこは思いとどまっているなっぴだった。

空間が少し開き、マイが顔を出した。

「ねえ、マイの出番はまだなの?」


「馬鹿っ、危ない!」

シュラのレーザー光がマイを狙った。

「きやっ」

なっぴの声に身の危険を感じ、マイが間一髪、空間を閉じた。

「やはり、生命体にはすぐ反応するわ」

なっぴは胸をなでおろした。


「まったくあの王女は危なっかしい」

ブルー・ストゥールで包まれたヨミのゆりかごの中でダーマはそう言った。

「なんとかここまできたが、『シュラ』がこのままとは思えないぞ、なっぴ……」

ダーマがそう思ったとき、なっぴは口を開けたまま呆然と『シュラ』を見ていた。


追い込まれたシュラは、なっぴに向けて新しい武器を起動した。


「……お母さん……」

それは、香奈の姿だった。シュラはこの星の恐るべき敵、知的生命体「なっぴ」の最大の弱点を人工知能ではじき出したのだ。それはおそらくは彼女以外には見えない、しかしダーマにはそれが想像できた。

「なっぴに母を殺す事ができない事さえ見抜いているというのか、一体シュラとは何だ。本当にこれが作り物のインセクトロイドなのか?」

香奈の力を使い、コマンドを書き変えたダーマでもこんな事までは予期しなかった。

「早かれ遅かれ、わしははじき出されていたという事か、もうすべはない」

なっぴは動きもせず、涙をこぼした。それを見た『シュラ』は胸から静かに鋭い数本の剣を伸ばした。しかしなっぴには、それは目には映らないだろう。なっぴには『シュラ』がやさしい母親に見えているのだから……。


挿絵(By みてみん)


「母さん」

なっぴは『レインボー・スティック』を下ろした。それを見て、『シュラ』はゆっくりなっぴに近づき、親子の抱擁をしようとした。残酷な最後の抱擁を……。


「お前は、そこまでするのか!」

たまらず『ダーマ』はそう思った。


 なっぴの膝が落ちた。その手には虹色に輝く七龍刀が握られていた。

「ルギュリリッ……」

左の胸、香奈の真珠のある場所を押さえ、シュラが叫び声に続いてうずくまった。なっぴにはその叫びはこう聞こえていた。

「そう、それでいいのよなっぴ」

「母さん……」

なっぴの前に現れた母は迷わず自分を刺す様になっぴに命じたのだ。

「今しかない、なっぴ、マンジュリカーナとして最後の試練。この星は守らなければなりません」

泣いている暇はない、残る武器は右腕からの火炎放射だ。なっぴが立ち上がった。

「聞こえる、セイレの声が」

「なっぴ、この海水を使って」

ただ闇雲に逃げ回っていたなっぴではない。なっぴは『amato2』に向けて二本の深い溝になる様にシュラに攻撃をさせていた。その溝を海水が勢いよく流れる。もちろんそんなものではシュラは休眠などしない。しかしわざわざそれに触れるとも思えない。


「マイ、そろそろ用意して」

「わかった」

「さあ、今度はあいつをしっかりくるんでやれ、おまえに母を殺させて済まなかったな」

ダーマはタイスケが入ったカプセルを見てそう言った。

「馬鹿ねえ、ブルー・ストゥールは外せやしない。ヨミのゆりかごだけじゃ、あんたが死んじゃうわ。ねっタイスケ」

「そうだ、地球一の知的生命体として俺を選ばないと全て台無しだからな、そろそろいいぞなっぴ」

彼女は頷きタイスケの入ったカプセルを両手で胸に当てた。そして心でそっと話しかけた。

(タイスケ、死なないで……)


なっぴはシュラが体制を立て直し向ってくるのを待っていた。案の定シュラは立ち上がり彼女に向い突進を始めた。右手から火炎を放ちながら、迫ってくる。十分引きつけるために彼女は真後ろの『amato2』のハッチを確認しつつもシュラの攻撃を紙一重でよけるだけだ。シュラを犬に見立てて、ボールをとらせる要領だ。違うのは決してカプセルをとらせてはならない事と、『amato2』の中にうまく投げ入れたあと、ハッチを彼女が外側から閉めなければならないという事だ。ためらいもせず……。


「マイ、私を一瞬この次元から飛ばしてまた戻してちょうだい。いい、投げるわよ」

すぐそこに迫ったシュラの火炎弾はついになっぴの頬を焦がした。しかし彼女はかまわずカプセルを右手に持つと大きく振りかぶり掛け声をあげた。


「イッチ、ニイ、のマイッ!」


地球一は言い過ぎだが、今この場にいる生命体では一番おいしい餌だろう。なっぴはカプセルを『amato2』に向って投げ終えると、マイの絶妙のタイミングでこの次元から飛んだ。残ったのは、『amato2』に投げ込まれたタイスケ入りのカプセルとシュラだけだった。暫くシュラは生命体のスキャニングをし、すぐそのカプセルを追った。その速度は彼女の想像を超えていた。しかしここまでは作戦通りだった。

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