39.三界のイブ
三界のイブ
リリナ・スカーレットが封印していた、バジェスとノアの力が放たれるのと同時に、生殺与奪の剣「クサナギ」も消え去った。その力を受け継ぐものはただ一人、意識が戻ったマンジュリカーナだった。その姿は地上最高の巫女「オロシアーナ」、アガルタを束ねる「エスメラーダ」には見慣れたなっぴの姿にしか見えなかった。
「なっぴ……」
ミーシャもセイレも、ようやく気付き、コマンドスーツを着たなっぴを見た。なっぴがゆっくりその右手を上げる。
「イブ・マンジュリカーナ!」
レインボー・スティックを回転させながらその球体にまんべんなく光が当てられる、よく見ると球体はそれぞれが全て異なる色を輝かせていた。光のシャワーもやがて消え去り、なっぴの髪が黒髪に戻った。しかしまだ再誕は始まらなかった。
たまらずミーシャが尋ねた。
「タイスケ、本当に虫人たちは再誕するの?」
「ああ、なっぴのあの目を見ろ」
「あの目は、オロシアーナ。ミーシャが持っていた、ヒメカの力に違いない」
「白龍刀、我に力を、イブ・オロシアーナ!」
レインボー・スティックが白龍刀に変わり、白装束の巫女は斬撃を飛ばし、舞う。
「なっぴが、ヒメカの力を使っている……」
その暫撃が無数のカプセルを二つに開いた。
「あれは……」
セイレが目を見張った、カプセルから這い出てきたのはまだ未成熟なラグナの幼体に似た生き物だったのである。それを見届けると、なっぴは白龍刀を一瞬で翻した。
「万龍刀よ、ここにあれ。イブ・エスメラーダ!」
なっぴの髪は緑色となり、人魚の姿となった。
「今度はセイレ、あなたの力だわ」
頷くセイレはその姿に母の姿を重ねた。
「……まるでお母様」
バジェスの剣はカプセルから生まれた生き物にあまねく緑色の光を照らす。成長する生命体はうごめく無数の触手が体内に吸収され始めた。そして頃合いになっぴはこう唱えた。
「黒龍刀、虫人の力を再び。イブ・アロマリカーナ!」
それはレムリア王国の女王の姿だった。黒龍刀の放った稲妻が全ての虫人達を貫く。そして黒龍刀はひとつまたひとつと光を放ち始めた。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。その七龍刀の光に加え、白、黒の九つの光。残念ながら万龍刀の放つ「生命の光」だけはタイスケ達には見えなかった。人型に成長を始め、ようやく虫人達が復活を始める。しかしタオが言った通り、この次元では虫人達は生きられない。タイスケはコマンドスーツに戻ったなっぴをそばでずっと見守っていた。
「ここから、お前はどうするのだ」
沈黙を破り、タオがなっぴに尋ねた。
「タオ、私がしようとしている事を知っているくせに、とぼけるのがお上手ね」
「そうか、お前はやはり『マンジュリカ』の精霊が認めた娘だ、よし試してみるがいい」