38.なっぴの決断
なっぴの決断
「エスメラーダ、オロシアーナ、そして私の力もこの星から永遠に消しましょう」
「いいのか、それで」
「タイスケは黙っていて」
「なるほど、解ってくれたか」
「と、誰でも思うでしょ。きっとそうあなたも思ったはず、だけど……」
「だけど?」
「やっぱり繰り返し繰り返すのね、それでも次元は歪んでゆく……」
「どういう事だ、お前は違う事を考えているのか?」
「フフフッ、今、次元の扉は完全に閉じているわよね」
「ああ、全ての虫人はそのバジェスの中だ。虫人は人間界では生きられないからな」
タオがそう言ってなっぴに念を押した。
「本当にそうなら、私も死んじゃうわね?」
「いや、香奈もお前も死にはしない、ゴラゾム細胞がお前達には受け継がれているからな」
「由美子もテンテンもシルティも人間界に来ていたのよ、なんだか変ね?」
「何が変だ」
「だって彼女達はこの星の別の次元で生まれたのよ、ゴラゾム細胞なんて受け継いでいるとは思えないけど」
「それは、レムリアが航行中、破損しない様にゴラゾムが念波を練り込んでいたからだろう」
「そうか、虫人が融合した原始生命体を幾重にもゴラゾム細胞で包んでいたからか」
「……お前、何をしようとしている……」
「生殺与奪の力、マナとヨミの力を私は全て解放する」
「それはお前が再びイブの力を使うということだぞ」
「この星には『時間』という力がある。再誕した生命をきっと限りあるものにしてくれると思うんだけど」
「しかし、虫人があの力を持ったまま、この星でそのまま暮らせるとは思えない」
「タオ、あなたのいう通りかも知れない。この星に留まるか、新たに旅立つか、その選択は彼らに任せます。私は彼らにこの星の同じ次元で礼を言いたい……」
「解った、それがお前の答えなのだな。マンジュリカーナよ」
「いいのか、なっぴ。何が起こるか解らないぞ」
「私は、私の役目がやっと解ったの。私の中のマンジュリカの精が呼びかける。バジェス、ノアの中の命がもう一度生まれたがっている、限りある命でもいい、精一杯生きたいと……」
「俺にできる事はあるか?」
タイスケがなっぴにそう言った。
「じゃあ、私の側にいてずっと見ていてくれる?」
「ばか、ずっとそうしてきたぜ。いまさらなんだよ」
「そうね、小学校の時、教室の蛍光灯が割れた時も、タイスケが私をかばってくれたのよね」
「まあな」
なっぴは、タイスケにそっとキスをした。そして目を閉じたまま髪を逆立てた。そのマンジュリカーナの広がった髪は天空を覆い尽くすに十分だった。やがて力尽き目を閉じていたはずのミーシャの瞳が開いた。
「アマオロスの元へ、ヒメカよ!」
なっぴはそう言うと天を指差す。ミーシャからヒメカの力が抜き取られていく。
「ツクヨミの元へ、クシナよ!」
カイリュウを従えクシナもまた天に向う。
「ヒメカ、クシナよ、我が身をその寄り代に、マンジュリカーナ!」
アマオロス、ツクヨミが天空一杯に広がる「生命の樹」の枝葉となった。
その枝葉が一葉一本と次第になっぴを包み込む、なっぴは緑色のマユとなった。マユは外側にゆっくりと開きはじめた。中から現れたのはイブとなったリリナだった。イブは目前のタイスケにこう告げた。
「なっぴの思いは揺るがない、全てのマナとヨミの力を解放します。バジェス、そしてノアに戻った生命を再誕させます。このクサナギを使って」
イブはその七色の剣で自分の乳房の下を突き刺した。七色の光が二つの原始生命体を包む。
「グゥルル、ギゲュルル……」
悲鳴とも嗚咽ともとれる声が漏れ、いくつもの亀裂がバジェスとノアに入った。その中から現れたのは「リリナ・スカーレット・サクヤ」そして「ヒドラ・フローレス・アロマ」という二神だった。そして二神ははじけ散り、原始生命体からおびただしい数の小さな球体が生まれたのである。
「これで私の力はおしまいよ、マンジュリカーナ……」