37.「マンジュリカ」
「マンジュリカ」
「漆黒の闇は小さな種となった。その種はマルマそのもの、マナとヨミが残した最初で最後の生殺与奪の力とともにリリナ・スカーレットに与えられた。限りある命が愛しいとお前達の女王はバジェスとノアの持つ永遠の力を体に封印し、自らの命とともに葬り去った。そのため、虫人は新たにうまれなくなった」
「それをヨミとマナが助けてくれた」
香奈がそう言うと即座に否定する声がした。
「いや、あのときゴラゾムに言った通り、あのまま放っていてもお前達は自身で解決しただろう」
「ヨミ?」
なっぴはその声に尋ねた。
「そしてリリナの娘は正に光となった」
「そのお声はマナ様?」
香奈が思わず叫んだ。
「マナとヨミがリリナの体で出会い、再び消え去る。わしはそう思っていた、ところが結果は違った。リリナ・スカーレットの再誕はなかった、娘にその力を残し、大宇宙に光となって広がっていった。それを追うようにマルマもやがて消えてしまった。馬鹿なことだ、そう思ったとたん、わしはマルマを見失ってしまった」
「それとそっくりな話を私はヨミから聞いたことがあるわ」
「そうか、元々あるべき星の生命体がその星を離れ、この星の次元の違う場所に落ち着く。それはよしとしよう、しかし世代を重ね、歪み始めた二つの次元は修復せねばならない。なっぴ解るかこの意味が?」
なっぴは小さくつぶやく。
「虫人はこの星では生きていけない……」
「いや、創神につながるものエスメラーダ、オロシアーナ、そしてなっぴお前もなのだ」
「異なる進化の果ての高等生命体は一方は淘汰されるものなのだ、それをマルマはかばった。なっぴ、お前が自身で決断するのだ。それが生命の樹『マンジュリカ』を精霊とするお前の最期の試練なのだ」
「決断は何度か行われたのでしょう。タオ、あなたは姿を変えて。ヨミと名乗り、マルマと名乗りまた……」
なっぴは立ち上がったままでそうつぶやく、そして背後から聞き慣れた声が聞こえた。
「時にはサクヤ、そしてフローレス、マンジュリカーナだった事もある」
香奈がなっぴの肩にそっと手を置いて言った。
「お母さん、やはりそうだったのね」
香奈に渡った里奈の精霊が静かに消えていった。気を失う香奈を支えたのは的場泰輔だった、なっぴの母をそっと寝かせ、いつものように二カッと笑った。
「なっぴ、手伝うぜ!」
力強い声がなっぴに届くと、なっぴは泰輔に優しく微笑んだ。
「タイスケ私に何をさせるつもり、私がどうしなきゃいけないか教えてくれるの?」
「さあ、それはお前が決めろ。ずっとそうしてきたろう」
なっぴは暫く考えた、そして「マンジュリカーナ」の最後の試練についに答えを出した。
「異なる次元でしか生きられないのなら、バジェスとノアを連れ出し、この星の歪んだ次元を修復させる。そうね、他に選択の余地はない」
タオはそれをただ黙って聞いていた。なっぴが続けて話した。