36.最後に残ったもの
最後に残ったもの
二人が目を凝らす、タオの映し出したその手首はマルマのうごめく谷にゆっくりと沈んでいった。
「もう、あの声は聞こえない。彼は星の中心、マグマに向ったのね。そして深い眠りに入った。やがてその星には地球と同じように原始生命体が生まれ増えていく」
「そう、この星と同じだ。しかし、お前たちには『聖三神・創神』はいない、いや必要もなかったのだ」
はじまりのもの、タオは話を続けた。
「お前たちはマルマの選んだ生命体、神さえ超える、恐るべき力を持っていた」
「それは、もとはあなたの力……」
「生殺与奪の力か、マルマがそれを手に入れたのは偶然のことだったのだ」
「じゃあ、あの手首はマルマに届かなかったと言う訳なの?」
「あれが届いたのは、マルマが活動を止め原始生命体へと変異をした後だった」
タオの見せる映像の中で、星が回転していく。その度に星は光に包まれゆっくりと光の帯を重ねていった。その帯は七本に達した。
「星が一回りする度にマルマは体を四分五裂していった。その原始細胞はやがて二つに再び集まる、軽きものバジェス、そして重きものノア。ともに生命を生み出し再びそこに戻る、その繰り返しによって次第に星の生命体は進化していった……」
なっぴがそれを聞き、繰り返した。
「軽きものバジェス、重きものノア……」
「そうだそれがやがてお前たちの星となった。それはずっと後のことだ」
「マルマはマナとヨミの残した『もの』を手にすることはできなかったのですか?」
香奈はタオに尋ねた、タオはこう答えた。
「そうだ、マナとヨミが触れたために生じたひからびた手首は『生命の種』となり、バジェスに飲み込まれてしまった。そのためルノクスの虫人の女王が不思議な力を持つようになったのだ」
「やがてリリナとマルマが偶然に出会った。それがすべてのはじまりなのね」
「マルマの存在を最初に認めたのが、虫人の女王リリナ・スカーレットだった」
リリナは繰り返し生命を生み出していく。しかしその生命体は消滅することはない。再びもとの原始生命体に戻るのだった。それを悲しいとも思わない、しかしラグナ・マルマに出会いリリナは悲しさを覚えた。初めて限りある命に愛しさを覚える。
「マルマは、そのときこの女王にマナとヨミの双方が宿り始めていることに気が付いた。そして自分の持つ力を女王に与えたのに違いない」
「その力とは、生殺与奪の力なの?」
しかしタオは答えなかった。マルマには既にその力はなかった。バジェスとノアに全てを分け与えて体さえも小さくなっていたのだ。
「マルマに残っていたものは、ただひとつだけ、それは漆黒の闇だったのだ」