32.『最初(はじまり)のもの』
『最初のもの』
「なっぴ、おまえはなんという娘だ」
天からその声が聞こえた。
「あなたは、タオ? それともマルマ……」
「名などない、あえていうならこの宇宙の『最初のもの』だ」
「この星に二つの歴史を持つ生命体が生まれた。それがこの星と虫人たち」
「そうだ、マルマはわしの生んだ神、お前たちの言う通り、もうひとつのわしの姿なのかも知れない。わしは見たのだ、ヨミがマナに触れたあの時」
「あの時……」
「話してやろう、はじまりの時を」
ー『タオ』の決断、それは『マナ』と『ヨミ』が作った最初の兄弟星を大宇宙の端へ捨て去るという事だった。不安定な核の惑星は『タオ』にいわせばグニャグニャのクラゲのようなもの、『ゴリアンクス』『ルノクス』はともに失敗作だった。タオは『マナ』に命じた。「星を作り直せ」と、しかし「マナ」は創造主として『ムシビト』を見捨てるのは忍びなかった。もう一人の創造主『ヨミ』は『ムシビト』などに興味もなかった。『マナ』と『ヨミ』には余計な感情は一切ない。そう作ったのが『タオ』だった。それなのに『マナ』に厄介な感情が目覚め始めたのだー
「もう、いいではないか。『ムシビト』もまたわしらが作ったものだ、何故こだわる。他の星にもさらに進んだ、美しい知的生命体はいくらでも生まれている」
「でもそれはあの星の『ムシビト』ではありません、『ヨミ』様あの星を作ったのは確かに私たちです。でもそれからの事は彼らが自ら掴んだ未来なのです」
『タオ』は『マナ』に確実に愛の感情が目覚め始めたのを感じた。それは『タオ』の予測通りだった。そして『ヨミ』にもやがてそれに反する感情が目覚める。大宇宙を創造し、知的生命体が生まれる、最期に『マナ』と『ヨミ』を大宇宙の隅々まで広める。それがタオの造物主としての仕上げだった。
(うむ、そろそろ『ヨミ』を目覚めさせる頃合いだ)
「よし、わかった『マナ』よ。『ムシビト』の未来は、彼らに任そう。わしの目には届かないもっとも辺境の空間に捨てるだけにしておこう。だがお前に目覚めてしまった感情『愛』は、いつかわしの脅威になる、残念だがお前もまた失敗作だったようだ」
『タオ』はそう言うと『マナ』を側に呼んだ。
『ヨミ』が『マナ』の腕を掴み、それを制そうとした。
「バチチッ」
互いに反物質で作られた身体は触れてはならない。その禁を『ヨミ』は無意識に侵したのだ。まばゆい光とともに『ヨミ』の右手首が消え去った。
「『ヨミ』様、その右手の感触、それがあなたの『愛』なのです」
そう言い残し『ヨミ』の目の前で『マナ』はこなごなに砕け散った。
気がつくと右手首は元に戻っていたが、彼は暗い空間に縛り付けられていたままだった。
「『ヨミ』お前もまた失敗作だった」
彼の肉体はすでに無い事を告げると、『タオ』は二度と彼の前に現れなかった。
右手の感触、たった一握りの『愛』が彼のすべてを一瞬で奪ったのだ。
なっぴは初めてヨミと戦った際、こう『ヨミ』言ったことがある。
「……闇のあなたが『マンジュリカーナ』を求めるのは、『タオ』になろうとするから、『マナ』の力溢れる『マンジュリカーナ』の存在を知ったから」
何度も『ヨミ』はなっぴを掴もうとする、しかし『七龍刀』がその度『ヨミ』を切り裂く。
「何故だ、何故お前は拒む。『マンジュリカーナ』さあ、わしの元へ来い、そうすれば……」
「そうすれば、『ヨミ』あなたは完全に大宇宙から消え去るのでしょう?」
「わしは、すでに『マンジュリカーナ』でなければ倒せない。お前の中の溢れる『マナ』でしか。そうさ、わしはお前を食らう、永遠にこの体を消し去るにはそうせねばならないのだ……」