31.選択
選択
「感じる、これってオレンジバイスだ、イオとアギトの力がみなぎる……」
真紅に輝く羽のタオは、それでも一歩も退かない、そしてなっぴにこう言った。
「はははっ、色あせるどころか、真紅の羽になったわ。このマルマの輝きこそヨミが最初に産んだ最初の光、これまでとは比較にならない。それでもまだ続けるつもりなのかい?」
「レッド・ホーンだけでは足りないだろう、なっぴ」
器用に薄い膜の張ったヒレを動かしながら、羽化したばかりのラグナがなっぴの目前に降りた。その体はタオの羽にも負けないほどの真紅の輝きを持っていた。
「ありがとう、ダーマ……」
なっぴの頭上には真紅の光りを放つ巨大な渦がゆっくりと巻き始めた。
「ダーマ、おまえはやっと羽化を果たした。それなのに、自ら死を選ぶのか?」
遂に七色を失い、漆黒のヨミが現れる。その姿は見慣れたリンリンだったのである。ブラックダークを再び持ち、リンリンは笑った。
「なっぴ言ったろう、この先またわしと戦うことがあると」
「待っていたわ、でもあなたは私の知っているヨミではない。容赦はしない」
「なにっ!」
「レインボーランス!」
レインボーランスにバイオレットキューが変化する。その先に光るのはアクアエメラルドだ、それを突きつけるなっぴに「漆黒のアゲハ」は一度振り上げた「ブラックダーク」を静かに下ろした。
「そうか、その覚悟なのか……」
かき消されていく闇に変わり、まばゆい光に浮かび上がったのは、髪をなびかせるなっぴの母、香奈の姿だった。
「なっぴ、いつから気が付いていたの?」
「サクヤが既にこの地球に着いていたと知った頃から」
「そう……」
「それに、マンジュリカーナの存在を疑い始めたのは、いつだって寄り代を必要としていたこと。誰かがこの星に別の生命誕生の歴史を作ろうとしている気がした、それが誰なのかも次第に解ってきた」
香奈の髪が逆立つ、その体にマンジュリカーナが降臨した。なっぴはそれに呼応するかの様に、体中の虹の光を集めた。それをコマンダーから放出する、その光がなっぴの髪を空中一杯に拡げる。その姿はまるで巨大な「生命の樹」の様だった。
「おお、なんとこれほどまでになっぴが……」
香奈の姿を借りたマンジュリカーナはそう言って驚いた。目前の娘はこの星が選びしものだ、もはや疑う術も無い。マンジュリカーナは二人同時に現れてはならない、宇宙の光はただ一つのものから生まれたのだから。
マンジュリカーナは一筋の光となりその「生命の樹」に吸い込まれてついに消えた。力尽き崩れ落ちる香奈に向って飛び出したのはなっぴには予想もしない光景だった。
「香奈!」
それはシルティの体を借りた香奈の姉「里奈」に違いない。里奈の精霊が香奈の体に吸い込まれていった。
「ううん……、なっぴ」
「お母さん」
母と娘はようやく再会を果たした。