3.レムリアの底力
レムリアの底力
「ふうーっ、間一髪。ありがとう、ナナ」
「礼なら、駆けつけてくれた彼らに言って」
王国一の駿足『マッハハンミョウ』の背中に乗った『なっぴ』と『ナナ』は上空に皆を寸前ですくいあげた『トビヤンマ』たちを見上げると大きく手を振った。空と陸に『シュラ』の攻撃が分散された。しかし正確に狙う攻撃を避けるのは常に紙一重だった。人工知能はすぐに学習し、攻撃から逃げる『ムシビト』の軌道計算を始めた。
「あっ、セイレが……」
『セイレ』がヤンマから落ちた。無理も無い、地上でさえつい最近経験した上に空中を飛び回るなど耐えられるはずも無かった。しかしその落下地点は遠かった。
「イダテン、お願い」
『セイレ』は『ナナ』が召還した『ハシリグモ』に受け止められた。その後ろの地面に大きな穴が開いた。
「準備完了、さあこの中に」
王国のけらたちが掘った巨大な地下トンネルがセイレを飲み込んでいった。
「セイレ、海底まで届いたら塩水を吹き上げてね。できるだけたくさんよ」
「わかった」
その瞬間、穴に向かって『シュラ』の攻撃が向かう。大音響とともに入り口が爆発した。しかし、なっぴはそこに横たわりセイレをかばった巨大なクジラを見たのだ。
「ミコ、あなたは……」
「俺は気ままなクジラ、アガルタを嫌って南極にいた。久しぶりに人魚が産まれたと聞いて駆けつけたとき、カイリュウ族から竜化の術が失われたと知った。俺には『セイレ』を守るくらいが精一杯なのさ……」
ミコは目を静かに閉じた。
「生命反応消滅、標的変更」
「ヤツは地下まではスキャンできないようだな、さて次はどうする?」
「あんたおもしろがっていない?」
『ダーマ』を由美子のストゥールにくるみ腰にくくりつけると、なっぴは一人地面に跳び降りた。『ブルー・ストゥール』は『ダーマ』を守るためだったのだ。
メタモルフォーゼ再び
「そろそろお相手をしてあげるわ、テンテン着床。セットアップ!」
『テンテン』がコマンダーに変形しなっぴの両耳にとまった。それを見て由美子も『トビヤンマ』から飛び降りていった。
「ドモンが見たらきっと妬くわね。パピィ着床、セットアップ!」
二人が唱えたのは同時だった。
「メタモルフォーゼ……」
二人が左右に分かれ『シュラ』を誘った。
「どっちが好みかしら? 人妻それとも女子高生?」
「まっ、なんてことを、それに『シュラ』って女みたいよ、なっぴ」
「ええっそうなの、やっぱり」
「どう見ても女王蜂だろあの姿は」
『ダーマ』がかなりあきれてそう言った。
「ギクテガララ」
意味不明な機械音声が発せられ、大地が揺れた。いやまるで鼓動のように波打った。
「来るぞ、磁場が大きく乱れた」
彼がそう言い終わらないうちに『鉱物弾』が地上に浮き上がった。それが次々と集まっていき、ソフトボール大になった端から二人に向かって打ち出された。ダイヤモンドのボールだ。当たれば二人の体は粉々になる。
鉱物弾はなっぴがよけると地面にめり込んだ。固い地面は、豆腐に針でもさすように突き抜けていく。弾は尽きない。地面は次第に穴だらけになっていく。動きが鈍いのがせめてもの救いだ。
人工知能は鉱物弾の攻撃がなっぴの反射能力より劣っていると判断した。攻撃が終わったと知ったなっぴはレインボー・スティックを握り直した。
「よーし、反撃よ」
二人の戦士は、交差することを避けながら交互にシュラを攻撃する。なっぴはバッタの跳躍力をセットアップし、レインボー・スティックを自在に伸縮させ、上下に移動しながらシュラを打突する。シュラが上を向きなっぴを追う時に、足首をインディゴ・ソードが狙う。薄皮をはぐ様に、やがてその足ではシュラの体重を支えられなくなるだろう。思った通りにそれは起こった。軸足を変えそれでもシュラは倒れない。しかし確実に動きは止められた。
シュラが再生できるのは破壊されてからだ。攻撃ができる間はまだ破壊されているとは認識されない。なっぴはそれを学んでいた。
「由美子。破壊してはだめ、ひとつずつシュラの武器を使えなくして行くのよ」
「オーケイ。でもその方がよっぽど難しいけれどね……」
「シュラの武器はそのひとつひとつが強力なもの、人工知能はお前たちの想像を超えた新たな武器さえ作るだろう。それをかわして封じる事などできはしまい……」
ダーマはそう思い、なっぴの無謀な作戦に驚いた。