28.虹色のアゲハ
虹色のアゲハ
「おお!ヒメカ、クシナ。この私にもう一度その力を貸してくれるというのか」
マルマはその身体に残ったもう一つの力「生与」の力を解き放つ。同時に一度は砕け散った「紫水晶」が再結晶し、この星の先住民のメシアが現れた。その姿とはあの純白の巫女アゲハ『シルティ』だった。シルティが微笑み、こう呪文を唱えた。
「アマテラスの女神イオナよ、この星をあまねく照らしたまえ。アロマリカーナ!」
シルティの中にマルマの「生与」の力が集められ、金色の光がシルティを包む。
ゆっくりと目を開いた女神は創神になるはずだった「イオナ」だ。シルティの身体の中でマルマとイオナが融合され、マルマは再び人型を得た。
「さあ、心を合わせて唱えましょう。光も闇もこの星には必要なのだと」
シルティに促され、ミーシャもセイレもシルティの側に寄り添い、はるか天空を舞う『生殺与奪』の神を見上げた。それは黒と青の小さな蝶に見えた、絡み合い互いに一つに溶けようとでも思っている様に、それらは果てしなく舞い上がっていく。
なっぴがもしそれを見たなら、トレニアの丘で見たカブトとマンジュリカーナのことをきっと思い出したろう。なっぴにかわり、三女神の声が天空を震わせた。
「ナノ・マンジュリカーナ!」
天空を震わせる雷鳴と共に大粒の雨が降ってきた。しかし一瞬でそれは止み、美しい虹がかかった。小さな蝶がどこからか現れ、次第にこちらに近づいて来る。その羽にまるで吸い込まれる様に虹の色も薄くなり、すっかり消えた。虹色の羽のアゲハが三女神の前に静かに降り立った。
アマテラスもアマオロスもそしてツクヨミも姿形は無い。マナとヨミがタオの命じるままこの星に現したものだ。とすれば、その虹色のアゲハこそ、マナとヨミが混在するものに違い無い。聖三神はともに虹色のアゲハにかしづき、こうつぶやいた。
「ああ『タオ』様……」
その姿は美しい女神だった、タオはその姿で聖三神の前に現われたのだ。
「この星に私を呼び、いったい何をさせるつもりだ?」
「今一度、マルマ様をお迎えして頂きたいと……」
「アマオロス、この私に再考しろというつもりか!」
その瞬間、アマオロスの姿はまるで何かに剥ぎ取られるように消え去り、ミーシャがその場に崩れ落ちる。しかし、今度はツクヨミがミーシャに続けと進言した。
「そうです、マルマ様はこの星に生命体をお産みになったのです、この星を作られた最初の……」
「神だとでも言うつもりか!」
明らかに怒りの表情で、タオはツクヨミを消し去った。クシナの聖霊を抜き取られたセイレは、がくりと膝をつきなおもタオを睨みつけながら言った。
「あなたは、どうしても認めないつもりなのね」
「認める? 何を認めよというのだ、お前たちは……」