27.「生殺与奪」の神
「生殺与奪」の神
「もし、私がイブとして『生殺与奪』の力を手にしても、例え何十回も虹色テントウを産んだとしても、二度とあの『テンテン』『リンリン』に会うことは無い。テンテンたちは私にすべて委ねている。この星の向かう方向、それは母さんにも私にもわからない。だけどテンテンは『声』を失った。セイレの言う通り、それはあなたとの戦いに負けたのに違い無い」
なっぴは、母を睨みつけた。もはやそれはあの「マンジュリカーナ」を超えるほどの威厳のある瞳だった。
「だったら何故、母と共にこの星のイブになることを拒むの?」
「テンテンは、あなたに戦いを挑みそして負けた……」
なっぴの瞳がさらに輝きを増した。それを見て、香奈も黒龍刀を抜いた。
「貴女は、母さんでは無い。少なくとも、ナノリアの危機を救うために私に力を再び与えてくれた母さん、セイレを救うために人質にまでなった『マンジュリカーナ』ではない。やはり彼女たちの制御を振り切ったのね。スカーレット、それとも『シュラ』と呼ぼうかしら?」
香奈の顔がゆがみ、サクヤと髪の色だけが異なる女神の姿が現れた。
「お前とは戦いたくなかった、しかしそうもいくまい。お前がこれからしようとしていることくらいわかる、さあ少し待とう」
『シュラ』はなっぴにそういい、インセクトロイドさえ叶わなかった、あのサクヤとそっくりな姿を見せつけた。
「あれが、本当のシュラ。わしの中にあった『殺奪』の力なのだ」
「誰よりも美しく、そして冷淡なシュラ」
そう言いながら、なっぴは手を天にかざす。紫水晶が砕け散り、やがてその中に立ちあがったのは、一人の美しい女神だった。なっぴの身体にヒドラを介して『生与』の女神『サクヤ』が再び現れた。マルマに備わっていた「生殺与奪」の力はこの星に二人の「女神」を表した。
向き合った二人は互いに手を合わせて、目を閉じる。その戦いは生物の戦いではなく精霊同士の「力比べ」の様なものだ。二神は今まさに天に昇る、互いに絡み合いながら高く高く。マルマがオロシアーナとエスメラーダに厳かに、そして優しい口調で促した。
「この星の二人の巫女よ、天降ろしてみよ、月呼んでみよ。叶うやもしれぬ、イブの再誕が今ここに……」
二人は互いにその顔を見合わせた。そんな呪文など知る由も無い、その様子にマルマはゆっくりとこう教えた。
「お前たちはあの娘の口から、その呪文を何度も聞いていよう。さあそれがまさに、今なのかもしれぬ……」
ミーシャが口を開いた。
「アマオロスの女神、ヒメカ。今こそ我に力を与え給え、オロシアーナ!」
ミーシャはヒメカを降臨させた。現れた黒髪の女神を見て、セイレがそれに続いた。
「ツクヨミの女神、クシナよ七海の人魚の力、今こそ我に呼び戻したまえ。エスメラーダ!」
セイレは次々とその身体の色、髪の色を変えていく、そしてそれも落ち着いた。ひときわ輝く長い髪の女神はクシナに違いない。深いエメラルド・グリーンの髪の女神が現れた。その姿を満足げにマルマは見ると、突然にダーマの身体が音を立てて崩れていく。