26.紫水晶
紫水晶
「邪魔をするな!」
香奈がなっぴの後ろの二人に向けて長い触手を伸ばした。それを飛び越え、二人の巫女は再びなっぴに寄り添う。その様子に香奈はマルマに向って振り返ると寂しげにこう言った。
「マルマ、何故母の元にあの子はかけてこないの?」
「………」
答えないマルマ、香奈はその背中の羽根に置かれた七つの星にもう一度尋ねた。
「あなた達からも、なっぴに言ってくれない? 共にこの星の『イブ』になれと」
そう言うと香奈はその背をくるりと振り返り背中にちりばめた七色の星に命じた。赤い星には「ラベンデュラ」の顔が浮き上がった。
「なっび、香奈と共に……」
橙色の星は「バィオレット」に変わった。
「イブ、すべての生命の母になるのです」
黄色は「スカーレット」の透き通る声でなっぴを誘う。
「よくやったわね、なっぴ。もうひと頑張り、さあ由美子とともに」
緑色は「ヒドラジンア」だ。
「マイと一緒に争いの無い星に作り変えましょう」
次の青色はもちろん「サフラン」だ。
「なっぴが加われば、あっという間にできるわね」
藍色は「ゲンチアーナ」と変わっていく。
「私たちは、香奈様について行く、迷うなんてあなたらしくないわよ」
そして最後の紫色の星が「デュランタ」である。デュランタは口を開いた……。
「………」
その声はなっびには聞こえなかった。テンテンは「ゲンチアーナ」と融合した際に「シルティ」から渡された「虹の原石」を大切に持ち続けていた。実はその力がテンテンの声を封じてしまったのだ。それを見たセイレはあることを思い出し、そしてこうつぶやいた。
「もし、戦いに破れることがあればその声をいただくわ……」
それは、アガルタのエスメラーダ人魚「ダルナ」がセイレに言った言葉だった。
「なっぴ、テンテンたちはおそらく……」
なっぴの手に七龍刀が握られた。その切っ先がテンテンの顔をはねた、思わず目を覆うミーシャとセイレは「コトリ」と何かが転がる音を聞いた。それこそテンテンの残した「紫水晶」であった。シュラは完全に制御されていた、しかし同時になっぴの母、香奈がアロマの娘「フローレス」の力に覚醒してしまったのだ。
マルマにはもうどうすることもできなかった。
「わしが残した、スカーレットがお前の母のルノクスの血を呼び覚ました。すでに消えようとするわしのこの力では何の手助けも出来ない。わしはその身体をなくしてしまった。ダーマの身体ではもはや……」
「さあ、なっびわかったでしょう。なぜ万寿一族が『生殺与奪』の力を持つのか、すべては宇宙の生命の母『イブ』であることから始まったのです」
しかしなっぴの口は開かなかった。拾い上げたのはヒドラの紫水晶、そしてやっとなっぴは口を開いた。