20.続く光
続く光
「ダーマン、お名前通りの真っ赤なお姿ですわね。私は、あなたのその思いをかなえてあげましょう」
「わしの思いだと? 知った風なことを、お前に何がわかるというのだ」
「あなたは、私たちの気持ちが知りたいのでしょう? 死を受け入れる時の私たちの気持ちが、いったいどんなものなのか」
「ああ、そうだ。不老不死のわしには、ほんの一瞬のお前たちの命が何故そんなに輝きを放つのか知りたい。わしはこんな硬い殻に覆われているが、この中身はグニャグニャだ。お前たちのように自分で立ち上がることさえ、ままならぬ身体なのだ」
リリナはそれを聞くとこう答え、にっこりとマルマに笑いかけた。
「私たちにも、永遠に続く『もの』があります。あなたの持つ力は、私たちが求めてやまない『神の力』と呼ぶものですよ」
「神、神だと?」
「はい、この世界の最初には、まだ始まりも終わりもなく、闇と光が生まれた時にようやく神が生まれた。その神は今に続く全てのものを持っていた、それ故ひとつに融合していたと伝えられています。その『神の子』こそあなたのことですわ」
「わしの身体にこの世界の全てがあると、お前はそう言うのか?」
「はい、私たちさえあなたの中に……」
突然、マルマは笑い始めた。
「リリナ、お前は面白い女だ。その男に再び命を吹き込んでやろうか?」
「それには及びません、王は立派に役目を果たして満足なはずです。それに私も既に悔いはありません」
「役目?」
リリナはそれには答えなかったが、ふと寂しそうな顔になった。
「限りがあるからこそ、輝く時があります。次代を引き継ぐ者は、それを受け止めさらに輝きを増すように苦心する、それを繰り返し、私達は僅かずつでもあなたに近づいていく」
「では、この不老不死の力をお前に与えてやろうか?」
「いえ、求めることとそれを手にすることは全く別のものなのですよ」
「別のもの……」
今度はマルマが寂し気に笑った。
「そうか、リリナお前もわしのこの力は不用だと思うのか。何のことはない、わしはやはり早く生まれた『できそこない』だというのだな」
「あなたは、自身をそう思い、この星の奥に沈んだのですね。でもそれは全く当たっていません。あなたは、私達がようやく手にした、新しい身体に急激に変化させる『メタモルフォーゼ(変異)』を生まれた時から手にしているのでしょう?」
「これのことか?」
マルマは身体から生える触手を片手でちぎると、それをもとにひとりの虫人を作り上げた。しかしそれには魂はもちろん入ってはいない。リリナは新たな輝きを放ちながら、呼応してこう唱えた。
「メタモルフォーゼ!」
その呪文とともに、リリナは砕け散り光となった。そして再び一点に集まるとその虫人の中に吸い込まれていった。それが果たして誰だったのかは今では解らない。
「一度は王を再誕させたものの、リリナは術の影響で娘『リカーナ』を残したまま死んだ、と言う伝承は事実ではない。再誕はこのわしがおこなったものだったのだ、しかもそれは王ではなかった……」