2.最後の作戦
最後の作戦
次第に体の細胞が集まり『シュラ』はそのぞっとするコマンドを復唱した。
「移住先ニ、知的生命体ガ存在シテイル場合ハ、トクニ念入リニ焼キ払イ、ソレヲ殲滅スルコト……」
彼女には何一つ策が思い浮かばなかった。
「たとえ海に投げ込んでもすぐにでてくるわね。どうにかしてシュラをもう一度閉じ込められないかしら……」
それを聞き『タイスケ』が言った。
「地球でもっとも頑丈な耐圧殻に閉じ込めよう、なっぴ」
「でも……」
「まあそれが一番可能性が高いな……」
マイの『ヒドラ・ボール』から『ダーマ』の声が聞こえた。どうやら『ダーマ』は消滅の進行が止まった様子だった。
「よかった、あなた助かったのね」
なっぴは安心して『ダーマ』に尋ねた。
「でも『シュラ』をどうやって中に入れるのよ。」
「おびき寄せりゃあいい、好物を使ってな」
「好物って……」
「なっぴ、俺がこいつの『えさ』になろう」
タイスケがそう言って進み出た。
「こんな耐圧殻を考える『知的生命体』だから、なるほどお前は上等な『えさ』に違いないが」
ダーマはそう言って笑った。
「だめよ、何言ってるの。タイスケ見たでしょう、つりのえさじゃないのよ」
「解っているって、でもそれしか無いだろ」
「でも……」
「いいか、今ここにいるみんなの力を使えば必ず『シュラ』をもう一度閉じ込めることができる。運が良ければ俺だって助かる」
それを聞いて『ダーマ』は感心した。
(ほう、こいつ。なかなかの男だ)
シュラの再生が進む中、なっぴたちは念入りな計画を練った。
「まず、ナナにはレムリアから召還してほしいムシビトがいるの。それはね……」
なっぴに耳打ちされて、ナナは大きく頷いた。
「解った、任しといて」
「それから、セイレとミコはアガルタの皆に海水の手配を頼んでくれる。できるだけたくさん必要だからね」
「クジラたちもジンベイザメも協力してくれるわ、大丈夫」
セイレはその目を閉じた。深海のアガルタまで彼女の念波は届くようになっていた。
「由美子にはお願いがあるの。大切なあなたの『ブルー・ストゥール』を貸して欲しいの、レムリア最高の守りのマユを作るのよ」
「タイスケのためでしょう。解ってるって」
頷くとすぐ、彼女はストゥールを肩から外した。それをタイスケにかけようとした時、なっぴがそれを制し、手に受け取った。
「その前に、ミーシャ。『オロス』の奥義を使って欲しいの、そう『タマヨセ』と『タマフリ』を、まだその力は残っている?」
「もちろん、なっぴこそ使えるの?」
ミーシャも由美子もなっぴの作戦が次第に解ってきた。
「ねえ、マイは何をしたらいいの?」
「お前は、隠れているのさ、あいつに見つからないようにな」
『ダーマ』が口を挟んだ。
「えー、マイの仕事はないの」
「マイはね、別の次元からここを見ているの、そして合図を待って『amato2』を別の次元に動かすの。早くても遅くてもだめ、『シュラ』は『amato2』の耐圧殻を破るでしょうから、一番大事な仕事だからね」
(この娘、不思議な娘だ。『シュラ』は俺でさえ、制御できないのに、こいつらの力ならなんとかできそうな気にもさせる。『おとり』になろうというあの男もそうだがいったい何のためにそこまでするのか)
『シュラ』の再生は思いのほか時間がかかった。それは体内の『ゴラゾム細胞』の抵抗に違いなかった。しかし、『香奈』を取り込んだ『シュラ』は、とうとうそれさえも押さえ込んだ。やがて以前と寸分も違わない『シュラ』が立ち上がった。
「移住先、太陽系第三番惑星、探査開始。知的生命体ノ、スキャン開始。反応アリ、排除ヲ開始スル」
コマンドをそう発すると『シュラ』は上空に飛び上がった。
「くるぞ」
『ダーマ』がそう言った。
紅蓮の炎が『シュラ』の手のひらから放たれる。ほんの一瞬で焼けこげた大地にはすでに何も残らなかった……。