15.誕生
誕生
「イブ……」
原始生命体はそうつぶやいたのに違いない。そして触手ごとその体内に吸収された。
「ゴミもガラクタも見境なしか、ノアと同じだ。『バジェス』よ、しばらく待っておれ。この星にわしに抗うものはもういない。この星の知的生命体を全て消し去り、お前とノアのために残してやろう」
未熟な原始生命を一瞥すると、マルマは再度「シュラ」の身体となり、両手を遥か海に向けて突き出した。
「ギガ・マルマ」
強力な閃光が届いた範囲の海水は一瞬で水蒸気の柱に変わる。そして離れた海上にも次々と同じように水蒸気の柱が立ち上った。数千度の水蒸気が天を覆い始めた。
「じきに全ての海水は水蒸気となる、ノアが海底から目覚めこの星の中心となる頃にはこの星の嵐がおさまり、再びお前たち『原始生命体』から新しく生命が生まれよう。争いも死もない、その生命体は永遠の命を持つのだ。『リリナ』わしがお前に見せたかった世界だ」
マルマは、そう言うとその場に座り込んだ。これから数億年も待つことになろうとも、彼にとってはほんのうたた寝の間だ。次々と海水が減っていき、魚たちも我先にと移動をはじめた。
「しばらくすれば、痛みも感じることはなくなる」
片目を開きそう言い終えると、マルマは再び目を閉じた。
「トクン……」
そのかすかな鼓動は、マルマには聞こえなかった。セイレの緑の髪が闇のなっぴの体内に消え、螺旋状に裂けていったのをマルマは感じることができなかった。そのたった一本の細い髪がなっぴの塩基配列だけを絡めとり、芥子粒にも満たない「なっぴの素」をまとめあげる時間を稼ぐためにミーシャとセイレは必死で攻撃をしていたのだ。
バジェスは「なっぴの素」を体内でほどき、シュラに使われていたゴラゾム細胞を取り出し、必要とする細胞を与えた。なっぴの細胞の構築に不可欠な爆発的なエネルギー、それは言うまでもないバジェスの元に集まった「虫人たち」の総意、「イブヲ救エ」だった。
「フィーン」
バジェスは粉々になったシュラの「再生装置」さえその無数の触手をシナプスの様に変え、稼働させた。マルマがうたた寝を始めるまで待たせることはできない。数千度の水蒸気に地球が覆い尽くされる前に、さらに力強い鼓動がバジェスから漏れた。その鼓動に気付いたマルマはバジェスが光り輝き、触手を再び伸ばすのを見た。しかしその先には炭化した茶色の消し炭が乗せられているだけだった。
「ほう、さすがに消し炭はまずいと見える、目障りだ粉々にしてやろう」
マルマは「それ」に向けて熱線を放射する。
「ギガ・マルマ」
強大なエネルギー弾が「それ」を直撃した。
「トクン」
はっきりマルマはその生命体の鼓動を感じた。マルマの一撃で皮肉にも奥義アマテラスは完了したのだ。