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なっぴの昆虫王国 イブ編  作者: 黒瀬新吉
140/141

140.贈り物

贈り物


「一度は拒んだサクヤの力、今、私はそれを使おう。ヒドランジアとして、イオナ・アマテラスの力とともに、虫人たちの記憶をあなたに届ける。さようなら、なっぴ。いつかあなたに生まれる、新しい命に幸多からんことを祈りつつ……」

マイの言葉は、ルノクスの王女の言葉だ。もはやあの「危なっかしい王女」はどこにもいなかった。


「ブツン……」


ハニカムモニターが真っ暗になり、何も映らなくなった。なっぴの耳に再びAIのカウントダウンが響く。

「5、4、3、2……」

「スイングバイ、ルノクスを離脱!」

タイスケが操縦桿を手前に引き絞った。補助ブースターに吸い込まれた宇宙空間に散らばる「ニュー・トリノ」にルノクスから採取した「ルノチウム」がナノレベルで融合した。


閃光とともにシリウス型エンジンの数倍の推進力がタイスケの改造した「新シリウス型エンジン」に生まれる。

「スウィィィーン」

高速振動とともに移送電圧が上がった。スイングバイの加速を「amato2」は最大限生かし、外宇宙へ向かう体制を整える。二人はシートベルトを締め、次の加速に備えた。


「グワッ……バキキーン……」

圧倒的な「加速G」を受け、補助席の床に固定していたボルトの数本が折れた。そして当分の間その加速Gと二人は戦った。


「がんばれなっぴ、光の速度を超えるまでの辛抱だ、時間をどこまでさかのぼれるか解らない。なんとか間に合わせたいんだ。地球の未来に取り返しがつかなくなる前に……」

「私は大丈夫。ルノクスから30ゼクトロンしか進んでいない、速度が安定したら真っ先に地球時間にシンクロするわね」


「ようし、待ってろよ地球」

(がんばれなっぴ……)

なっぴの背中には虫人の声が鳴り響いていた。

「やるっきゃあない!」

「なっぴ、何を突然大声あげているんだ」


「心意気よ、ところでタイスケ気になってるんだけど」

「なんだ?」

「amato2から出たとたん、私たち一気に年をとっちゃうとか絶対ないでしょうね?」

「ハハッ、ないない。ちゃんと外宇宙航行の不具合をカグマ博士は克服していたんだ」

「よかった。一気に金婚式ってのは、さすがに私もパスね……」

「俺だって、そうだな」


「外宇宙航行速度、安定シマシタ」

AIサクヤはそう報告した。それを聞き二人はシートベルトをようやく外した。スイングバイ中の緑色の照明から、太陽光に近い館内照明に切り替えられた。

「あーあ、見事に壊れちゃった……」

なっぴが振り返ると、ハニカムモニターはすでに砕け散り「amato2」の床にわずかな破片を残し消滅していた。その破片はさらに小さく縮んでいき次々と消滅していく。

「さようなら、ルノクスの虫人たち。あなたたちのこといつも見ているわ、どこにいたって」

なっぴは、テンテンたちのくれた包みを開いた。薄く軽い布がきちんとたたまれて箱の中にあった。

「赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、七色のストール。ありがとうみんな」

それは虫人たちの巫女それぞれの守護色だ。そしてコオカたちのくれたペンダントをつまみ上げ、なっぴは首に掛けた。そしてくるりとタイスケに振り向く、彼は目を丸くして驚いていた。


「何驚いてるの、ははーん、私の美しさ見て惚れ直したの?」

「ちがうちがう、なっぴ、その床を見てみろ!」

「えっ!」

彼女はモニターの破片が散らばっていた床に視線を落とした。

「これは、七色の原石じゃあないかしら?」

それはテンテンの中にあった「もう一人のなっぴ」だった。テンテンが虹の原石に取り込んでいたなっぴの闘志や希望や経験らが、ヒドランジア・マイの力でハニカムモニターから贈られたものだった。それらは「山椒(さんしょう)」の種ほどだ、しかしその輝きはスペクトル光さえ凌駕(りょうが)していた。


「これはどういうこと?」

なっぴは床に近づくにつれ、七色の原石が一斉に明滅し始めたことに気づいた。

「……わかった!」

彼女は床の原石をすべて拾い上げるとシートに戻った。そしてペンダントトップの小さな甲虫の羽にあるくぼみに注意深くひとつずつ当てはめた。原石がはめ込まれた甲虫は小さな虹色テントウ虫だった。

「なっぴ、少し眠れよ。最初の銀河を超えたぞ」

「うん、そろそろ地球時間にシンクロするわね」


「……地球到着時刻、20××年4月16日10時28分。シンクロ完了。AIサクヤ自己消滅……」

「サクヤも消滅していった。地球に着くまで、もう頼るものはないぞなっぴ」

「チッチッ、それがあるんだなあ」

「その虹色テントウか、それとも……」

なっぴがタイスケの口をキスで塞いだ、そして得意気な面持ちでこう彼に言った。

「私の予知力によれば、地球に着くまでにタイスケはかわいい女の子のパパになる」

「何だって、そりゃ本当か?」

「だってリカーナもそうだったでしょう、血筋よ血筋」


「そうか、だったら俺たちが無事に地球に着くことは保証されてる訳だな、よかった」

しかし、その地球はどんな姿で二人を迎えるのだろうか、地球時間であの日以来10年近く経っていることになる。ミーシャはセイレはそれに家族はどう変わっているのかはなっぴにも解らなかった。外は真っ暗な空間が続く、彼女を待つ地球の姿を創造しながら、なっぴはすやすやと眠り始めていた。

「おい、なっぴベッドで眠れよ」

返事はなかった、彼は「amato2」のオートクルーズシステムをセットした。そしてなっぴを横抱きにかかえ上げると後部の寝室に運んだ。

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