14.奥義
奥義
再誕を可能にすれば生死を操る事になる。生きる意味、時間という概念も希薄になってしまう。宇宙の存在も無意味になり、混沌に戻る。リリナはそう考え、禁術とした。それはこの星の巫女も同じだ、しかし今、クシナの「タマヨセ」イオナの「タマフリ」そしてヒメカの「タマムスビ」その一連の再誕の術「アマテラス」はついに『ヒメカ・オロシアーナ・ミーシャ』が解き放った。
「アマテラスだと? まさかこんな辺境の星に『マナ』が集まるはずがない……」
タイスケの体を借りたヨミは、少し高揚した声でこう応えた。
「わしを浄化したのは、その力を使う娘『マンジュリカーナ』だった」
しかし、マルマはそう聞いてもなお、負けじと数多くの炎の矢を放った。それを見たタケルがセイレの「バジェスの剣」を握り、ミーシャに向う矢を一瞬でなぎ払う。
「ありがとう、タケル。私の役目は終わった、あとは虫人たちに任せましょう」
ハッチが開いたままの「amato2」に力尽きた巫女二人とカイリュウが入った。最後にハッチを閉めたのは、タイスケだった。ヨミはタイスケが息を吹き返したのを見届けるとこう言い残して消え去った。
「マンジュリカーナ、いや『なっぴ』、あの娘も随分美しくなっていることだろう。わしはお前が闇に迷わぬ限り会うことはない、あのお転婆に会えないのは、少し残念な気もするが……」
カムイの大地に動くものは、とうとう実体化を成し得た「マルマ」だけになった。
「おや?」
ダーマを包み守っていた「ブルー・ストゥール」が帯となり、生き物のように動き始める。それに呼応して「レムリア」が巨大なヒドラ・ボールの中で鼓動を打った。
「これは……。わしは何を見ている、何を聴いたのだ……」
生命体が打つ「最初の鼓動」を聴いた「マルマ」。そしてこの「生命の爆発」の繰り返しを見守っていた、女神。ストゥールが炭化したなっぴの身体をすっかり包み込んだ。やがてヒドラ・ボールは球体からまゆへそして更に収縮していった。その形状は軟体のナメクジのようにも見えた。
無数の触手が「レムリア」から伸びる、その二本は螺旋状に絡み「マルマ」を狙う。しかしそんな攻撃が通用するはずもない。触手をマルマは引きちぎり、緑の体液が飛び散る。
「哀れな、そんな身体で何ができる」
今度こそはと触手は更に増えた。しかしそれもまた同じようにマルマは引きちぎる、体液を吐き傷口を塞ぎ、ようやく攻撃は止んだ。
「そうだ、それでいい。虫人たちの総意? イブ? そんなことを考えても無駄だ」
「イブヲ救エ……」
原始生命体はそう言いつつ、今度は先刻の触手の数を数倍に増やした。攻撃する触手をマルマはかわした。空を切り、マルマの代わりに触手がとらえたのは捨てられたままの「インセクトロイド」そして炭化したまま「ミイラ」のように青いストゥールに包まれたなっぴの身体だった。
二体の亡骸は原始生命体に持ち上げられ、次には母の抱擁のように優しく抱きしめられた。