139.スイング・バイ
スイング・バイ
「なっぴ、そしてタイスケ、本当にありがとう。あの七色に輝いているのがきっと二人の乗っている「amato2」でしょうね、私が届けたハニカムモニターは壊れてないかしら?」
「マイ……」
しかしなっぴはそれ以上は声が出なかった。
「なっぴ、私たちはあなたとシンクロナイズドしているのよ。あなたの考えなんて、とっくにオ・ミ・ト・オ・シ」
由美子が笑った。
「記憶が消えてしまう前にあなたを見送るつもりだったの、皆でね」
リンリンがそう言った。
「なっぴ、今まで本当にありがとう。絶対に地球に着いて、ミーシャとセイレに逢ってちょうだい」
テンテンは少し涙まじりだ。
「香奈に伝えてちょうだい、ルノクスにもマンジュリカーナに負けない巫女たちがいるとね」
ラベンデュラが巫女を代表して言う。
「なっぴ、コオカと一緒にいつもお前たちを見ているぞ、おいコオカなんとか言え!」
コオカは号泣していた。シルティがコオカの代わりに言った。
「私たちはあなたにもらったこの命をつなげていくわ、あなたは私たちのイブですものね」
「そう、俺もそれが言いたかったんだシルティ……」
「なっぴ、私のお姉さん……。いろいろ教えてくれてありがとう」
マイはすっかりルノクスの王女として成長しているようだ。
「スイングバイマデ、アト30秒、29、28、27……」
AIがスイングバイまでの時間をカウントし始めた。
「なっぴ、アマテラスが沈む彼らの記憶とともに……」
タイスケが彼方に見えるアマテラスを見てそれをなっぴに伝えた……。
「いっけー、なっぴ」
ガッツポーズをとったまま、ヨミの戦士たちの膝が次々と崩れていった。
「私たちの新しい歴史は、これから始まる。心配しないで、未来に行きなさい……」
筆頭巫女ラベンデュラはそう言い残し、フローラ国の女王スカーレット、虹の国のバィオレットとともにアロマの血を引くフローラ三姉妹は目を静かに閉じた。手を振ったまま倒れる虫人、ひっくり返るものさえいた。一人一人のその顔はしかし、なっぴには涙でぼやけてよくわからなかった。
「そろそろ、私たちにも虫人の記憶が薄れてきた……」
それでも立ち続けているのは、マイ、シルティ、テンテン、リンリンそして由美子の五人だった。
「私たちの記憶もパピリノーラ様は容赦なく消してしまわれるのね……」
とシルティが恨めしそうに言い残してその場に崩れた。
「なっぴのこと忘れたくないのに……」
由美子は消え入るような声をあげ、唇をかんだまま目を閉じていく。
「タイスケ、なっぴを悲しませたら承知しない……」
リンリンは、最後まで言い残したかったに違いない。
テンテンはゆっくりとこう言った。
「なっぴの王国での姿が、この私だと母さんに言われた時から、私はずっと考えていた」
二人のシンクロ率は99パーセントを超える。それがテンテン、デュランタの姿だった。
「私の中のもう一人のあなたを今、あなたに返します。私たちの記憶とともに……」
彼女はまるで神に祈るかのように指を組み体をかがめたまま、そこで動かなくなった。
「なっぴ、あなたは私が送ったハニカムモニターで私たちの姿を見ていることでしょう。私が何故最後までここに立っていられるのか不思議に思っているかも知れないわね」
マイがゆっくり話し始めた。