136.衛星「アマテラス」
衛星「アマテラス」
「ウィーン」
ゆっくりと搭乗用ハッチが開き、昼間の衛星として作った星のひとつ「アマテラス」の光に背中を押されるように二人はアマトに乗り込んだ。タイスケが改良を加えた新シリウス型エンジンを搭載した「アマト」の推進システムは高速で「ナノ粒子」を振動させ「ルノチウム」の核を分裂させる際に発生する際の光エネルギーを利用して推進する。その際に生じる爆発的な振動は地形を再び大幅に歪ませるだろう。そうしたアマトの起こす離陸時の影響は計り知れない。そうなっぴは王女マイに話していた。
「見送りはいらない、地下にあなたたちのために地下壕を掘り、ツクヨミが輝くまでじっとしていなさい」
それがマンジュリカーナの命じた事だった。その言いつけ通り、ひとりも見送りのいない二人の出発が始まった。
「マイは結界を解けば虫人達がどうなるかをきっと解っているはず。でも私はしなければならない」
ようやく地上の振動も治まり薄い水蒸気に覆われているルノクスの引力圏を離脱して「アマト」は目標に向い、軌道修正を数度行うと進行方向をロックした。アマトは衛星「アマテラス」を起動させるために、衛星の中心を目指していた。衛星の中心は核分裂をするばかりで、まだ核融合には至っていない。その核分裂が作り出す紅蓮の炎を切り裂きながら、アマトは衛星の中心を目指してさらに進んで行く。そして遂にアマトの表面を覆う耐圧穀が、高温により発火した。
「 パン、パン、パン……」
外殻の「光発電パネル」が高温に耐えきれず、次々と砕け散りはじめた。
「もう、そろそろ限界だ。なっぴ」
アマトの操縦かんを持つタイスケが、なっぴを振り返りそう促した。
うなずく彼女はタイスケに合図を送った。
「オーケイ、タイスケ。後部ハッチを開けるわよ!」
「ウィーン」
アマトの後部ハッチが開く。そして現れたのは「amato2」だった。それは「アマト」の進行方向とは逆向きに格納されていた。開いた後部ハッチから炎が吸い込まれる、一瞬で「amato2」の艦内温度が上昇した。タイスケは新エンジンのブースト圧を確認して、脱出用の点火システムのレバーを手前に引いた。それは彼の力だけで充分な軽さのはずだった。しかしその手の上には細くて柔らかいなっぴの手が、載せられていた。
「アマトよ、アマテラスのコアとなれっ!」
二人の掛け声と共に、ルノチウムを詰め込んだ「アマト」は衛星の中心に一直線に沈んでいった。切り離された「amato2」はフル加速のまま、アマトが切り開いた道が炎に閉ざされる前に「アマテラス」の引力圏外に脱出しようと懸命に加速を続ける。「amato2」は光に包まれていた、その光はマナの与えたものに相違なかった。まるで薄い耐熱シールドのように「amato2」を包んでいた。
「ズオオオオーン」
やがて「amato2」の後方で大爆発が起こった。それはすでに「アマテラス」の引力圏外に脱出した「amato2」からもはっきりと確認できた。新しく強力な白色光が「アマテラス」の核融合が始まったことを二人に伝えた。だがその歴史的瞬間を、ルノクスの虫人たちは誰ひとりとして見ることはなかった。なぜならその時、彼らはルノクスの地下壕でじっと耐えていたのだ。