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なっぴの昆虫王国 イブ編  作者: 黒瀬新吉
135/141

135.反対者

反対者


「おい、本当にアマトを破壊するのか?」

「ああ、ルノクスの結界を解けば、俺たちは死に絶える。サンドラ様がそうおっしゃったろう」

サンドラとは、新興宗教の教祖だ。予言の書なるものを手にし、虫人の中でも入信者が多い宗教のひとつだ。

「だが、何も破壊しなくともよいではないか。結界を解かないで欲しいとマンジュリカーナ様にお願いすればいいのではないか」

「ガザよ、お前は臆病風にでも吹かれたか、いいかよく聞け、以前とは違う。もはや呪文の使えなくなったマンジュリカーナごとき恐るるに足らん」

「スサ、しかしこれだけの人数でアマトまでたどり着けるのか、途中王国の親衛隊もいるというのに」


スサと呼ばれた虫人は、膝がかすかに震えている。二人だけではない、同様の不安を持つものも少なからずいた。少なくとも今のままなら、虫人は平和だ。結界を解かなければ、失うものはないのだ。それを責めることはできない。次第に同じ方向へ向かう虫人たちが合流していった。


「なあ、スサ。あの光は何だろうな、レムリアとは違う青い光だ」

「あれは、マンジュリカーナが作った星が燃えている。昼間に燃える星はあともう少しで、ようやくこの星の花が開くほどの明るさになるそうだ」

スサは得意気に彼に答えた。ガザはそれを聞いてつぶやいた。

「そんな力がマンジュリカーナ様に残っていたのだろうか?」

聞こえぬ振りをして、スサは青く照らされた道を進む。しばらく進むとガザは妙なことを言った。

「披露パーティのマンジュリカーナ様はほとんど椅子に座っていらっしゃった。マイ様が俺たちにおっしゃった様な、ぴょんぴょん飛び回るようなお方ではなかった。

「ガザ、お前は知らないのか。このルノクスを再誕させた後マンジュリカーナは意識を失っていた。気がついたのはつい最近のことだ。まだ完全に体が回復されていないのだ、だからほとんどパーティーでも椅子に座っていたってことだろう」


「結界はマンジュリカーナ様が張られたと聞いたぞ、それは我々のために。燃える星もそうだ、披露パーティーに出るのも大変だったろうに……」

「ガザ、何が言いたい」

「いや、何故そこまで虫人のためにされるのだろうとな、俺らは本当に死に絶えるのかなって……」

「サンドラ様を疑うのか、予言の書を信じないというのか?」

そう言われてガザは押し黙った。しかしスサも考え始めた。

「そうまでしたルノクス、そして虫人たちをマンジュリカーナがはたして見捨てるのだろうか……」


次第に二人の足取りが遅くなった。振り返るとすぐ後ろに虫人たちが続いている。

「ガザ、お前は知っているか。あのマンジュリカーナは、ルノクスで何度も死にかけたことを」

「ああ、それに人間界でも同じように……」


「何のために、結界を解くのかなぁ、ガザよ」

「俺たちのためだろう、きっと」

「そうか、俺たちのためか」

「俺やお前のためでなく、俺たち虫人のためか……」

スサとガザの足が止まった。数人の虫人が二人に追いつき声を上げた。


「おい、抜け駆けか?」

その虫人の声はコオカとラクレスだった。しかし二人はその声に聞き覚えはない。

「いや……」

「そうか、かさばるものはだめだと王女に言われていたからな、こうしてこっそり持ってきた」

「それは?」

「特別に教えてやろう、俺たちの角を削って作ったペンダントだ。土産にこれくらいならいいだろう」

「角?」

そんなものが虫人の力をなくしたものに残っているはずはない、スサは首を傾げた。


「おや、あの青い光のもとでは、虫人の力を取り戻せることをお前たちは知らないのか?」

「なんだって!」

「コオカ、そろそろアマトに着くぞ」

「コオカ……様」

「ラクレス、思った通り集まっているぞ。ガマギュラスもギリーバもそれにギラファまでいる、酒まで飲んでいる、全く……」

「ラクレス王か?」


青い光に映し出される虫人の頭上には、それぞれに立派な角が浮かび上がっていた。


「マンジュリカーナ様、ようやく解りました。あなたが消滅させようとしているもの、それは私たちではないのですね……」

そうつぶやいたのは、スサの方だった。「ツクヨミ」はアマトの上で、ただ青く光るばかりだった。


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