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なっぴの昆虫王国 イブ編  作者: 黒瀬新吉
134/141

134.ルノクスの夜

ルノクスの夜


「さあ、そろそろ帰ろう。明日に備えて二人とも準備に忙しいからな」

バイスがまだ名残惜しそうなテンテンに声を掛けた。

「バイス、テンテンはおっちょこちょいだけど。これからも優しく見守ってあげてね」

「まっ、なっぴに言われるなんて。駄目な姉さん」

テンテンは無言だ。

「そろそろリンメイも寝る時間だぞ、リンリン」

そう言って促すのはスタッグ。

「スタッグ、リンリンはとても素直な子。しっかり者だし、あなたとはお似合いよ」

しかたなくリンリンもリンメイの手を引いて外に出た。


「由美子、ちゃんと渡したのか?」

「お土産は少しだけにしといたわ。はい、なっぴ」

小さな箱に押し込められたお土産がひとつなっぴに手渡された。

「私たち、いつかまた、会えるね……」

「ええ、きっと!」


「そう言えば、マイは?」

「マイ様はカグマの記憶を辿っている。虫人の記憶を伝える巫女としてサクヤの記憶を受け継いだ。ヒドランジアとして、そしてルノクスの王女としてこの星を守っていくために」

ピッカーがマイに代わりになっぴにそう伝えた。と、懐かしい声が突然響いた。

「なーんてね、なっぴ、地球でも元気にやってね。私たちはいつもあなたとともにある。ずっとこの星から二人を見ているからね」

「マイの声だ、いったいどこから?」

みんながその声の主を捜した。


「ここだよーん」


アマトの館内に新しい「ハニカムモニター」が現れた。その中にマイの姿が映し出される。

「真っ先に、マイ様はハニカムモニターを作られた。外宇宙に出るまでルノクスと交信できる、カグマ以上の科学者だ、ヒドランジア様は……」

「マイ、ありがとう。あのマイがこんな事ができるようになったのね」

「さあ、明日までルノクスの夜を楽しんでくれ。新婚さん」

「まっ、ドモンたら」

ドモンは「意味深」な言葉を残して外に出た。後に由美子が続く。なっぴも負けじと由美子に答えた。

「由美子も早くお母さんになってね」

「なっぴったら……」


再びアマトの中は静かになった。昼間用の衛星が輝きを増すのには、まだもうしばらく時間がかかる。夜用の淡い輝きの衛星「ツクヨミ」の下で、タイスケはアマトの入念なチェックを続けていた。その準備もやっと終わり、なっぴはルノクスを包み込んでいる結界を全て解き放つ、その心の準備も整った。

「なっぴ、テンテンが言ったけれど、虫人は生き残れるのか?」

寝室の中で二人は最後のルノクスの夜を迎えた。

「私にそれを聞くの、タイスケ」

涙顔を見て、タイスケは首を振った。

「ごめん、お前には解るんだな。虫人達がこのままでは済まない事が」


「それも、パピリノーラの約束。タオの示した通りの虫人の未来……」

タイスケは彼女にかける言葉を探した。そしてこう呟いた。

「もし、おまえが望むのなら、このままこの星にいたってかまわないぞ、なっぴ」

「ううん、それはできない。虫人はそんなに弱くない、それどころか彼等は強い。皆、未来を自分たちで切り開こうとしている」

「なっぴ、まるでお前は「創造主」の様なことを言う。タオはいつの間にかお前を認めてしまっていたんだな。『マンジュリカーナ』は『アマテラス』も『ツクヨミ』も扱える『タオ』の後継者だと」

「それは言い過ぎよ、私は私、神でもない。今夜はタイスケ、あなたの愛を受け入れる、ただの花嫁……」


その間でも発射台(カタパルト)の上に置かれたアマトは、発光電池パネルを使って充電を続けていた。外殻にちりばめられたそのパネルは、変換効率が良いようにスペクトルごとに色分けされていた。衛星「ツクヨミ」から照射される淡い青色に反応するパネルがまばらに光っていた。

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