133.出発前夜
出発前夜
パーティーが終わっても夜遅くまで、なっぴはテンテンたちとアマトの中にいた。テンテンとは、生命を救ってくれた小学生の時からの付き合いだ。そして、由美子に出会い「メタモルフォーゼ」を知ることになった。リンリンはテンテンの双子の妹だが、闇に操られ、「漆黒テントウ」として長く敵対していた。そうした思い出話は尽きることもない。なっぴは今になって思った。
「あのラクレスたちを狂わせたのも、タオの与えた試練、シュラのひとつだったのね」
「テンテン、由美子、リンリン元気でいてね。私、頑張るから……」
「もちろんよ、ね、リンメイ」
「お土産忘れないでね、お姉ちゃん」
リンリンは既に母になっていた。娘のリンメイが明るい声をなっぴに投げかけた。
「うん、任しといて!」
その約束が叶うとしても、それは遠い日になるだろう。そして由美子がなっぴの手を取るとこう言った。
「なっぴにお礼言わなきゃ。約束どおり、ドモンに合わせてくれた事。それに私がこの星で生きることに決めてくれた事」
「良かった、由美子がそう言ってくれて……」
由美子たち三人を虫人として再誕させた事は、間違ってはいなかったと彼女は確信した。
「なっぴ、本当に地球へ帰るのね。あなたらしいわね」
「そう、帰らなきゃ。きっと何とかしてみせる、ミーシャもセイレも私の帰りを待っている。だって約束だもんね」
なっぴの見た未来の地球は何を示していたのだろうか。地球のエネルギーの枯渇、それはすぐそこまで来ているのだろうか、それとも地球に莫大なエネルギーを使う事態でも起こったのだろうか。しかし遠い地球のミーシャとセイレの二人は決して諦めてはいないだろう。
「結界が消えてしまうと、私たちのどれくらいの虫人が、このルノクスから消えて行くのかしら」
テンテンはなっぴの杞憂を知っていた。そしてそう尋ねた、その現実は彼女がルノクスを離れた時必ず訪れるのだ。残酷な事に彼女の予知能力は、それをすでになっぴに伝えている。しかし、それをテンテンに告げる訳にはいかない。彼女の顔がたちまち曇っていく、それを見てテンテンが笑った。
「うそうそ、未来は知らない方がいいことだってあるものね……」
(その通りなの、テンテン。私は実はそれを知っている……)
なっぴはその「力」を初めて呪った。皆に悟られてはいけない、すぐに彼女は笑顔を作った。
「もうすぐ生まれるテンテンの赤ちゃん、見れなくて残念だけど、きっと可愛いでしょうね?」
「もちろん、でも知らないでしょう。なっぴの知っている赤ちゃんとは全然違うけどね」
「ええっ、そうなの?」
「生まれた時は、そうね地球の昆虫そっくり。そして脱皮を続けてやっと虫人になる、ルノクスの虫人たちはみんな変態するのよ」
「じゃあ、テンテンの赤ちゃんが見れるのは先のことね」
「そう、地球で言えば2〜3年先のことかなぁ」
「ふうーん、そうなんだ。テンテン、バイスといつまでも仲良くしてね」
「うん、なっぴもね」
「もう、テンテンたら冷やかしたつもりだったのに」
「えっ、そうなの?」
「駄目駄目、姉さんの鈍感な所は変わってないって」
「こらっ、リンリン!」
艦内の笑い声が収まった頃、外が騒がしくなった、タイスケと一緒にテンテンたちのお迎えが来たようだ。