132.「やるっきゃない」
「やるっきゃない」
宴の途中、さすがになっぴは疲れを見せた。
「生まれ変わったアマトをご覧に入れましょう」
タイスケがアマトを中心に置いた会場に来賓を連れて行った。ひと回りほど大きくした球体は外観はほとんど変わっていない、ただ後部には新しい推進システムが採用されていた。
「それは、シリウス型のエンジンのもの、いつの間に……」
シルティとコオカが顔を見合わせた。
「そう、カグマ博士の開発した星間航行用のシリウス型エンジン。それに改良を加えたものだ」
「どれ位かかるの、地球に着くまで」
テンテンが尋ねた。およそ1000ゼクトロンもの距離を「レムリア」は数年かかって航行した。改良したエンジンとはいえ、やはり相応に時間はかかるだろう。タイスケはこう答えた。
「最低一年はかかるだろう、ルノクスの君たちは五年後に僕たちが地球に着いたと思ってくれ」
「五年後……」
「もう少し、この星に居たかった。でも、地球に帰らなければならないみたい」
なっぴは、皆に予知力で垣間見た地球の未来について語った。由美子が彼女の意見を述べた。
「私は、あなたにここにいて欲しいと思っている。未来を変える事などできないかも知れないのに……」
「それに、ミーシャもセイレもそれを放っているとは思わない、きっと何か手を打っているはずよ」
リンリンがそう付け加えた。なっぴはこれからのルノクスの事を二人に話した。
「でもね、由美子、リンリンこのルノクスはまだ完全ではないのよ。私がここにいる限り最後の結界を解く事ができない。小さな鳥かごのままなの、私はここにいてはいけない。それがツクヨミを使う唯一のタオの条件だった。そしてそれがあなたたちへの最期の試練なの……」
なっぴは感極まり涙さえ浮かべていたのだった。それを見てテンテンが微笑んだ。
「解ってるって、なっぴ。私もマイも由美子もリンリンもサクヤから聞いているのよ」
「サクヤから聞いている……」
「この星をリカーナ以上の結界で包み守っている、あなたが最高のマンジュリカーナだということも、その結界はあなたとともにやがて消え去る事も、その後本当の試練、虫人の淘汰が始まる事もね、なっぴ」
「でも、ようやく再誕したあなたたちが、確実に淘汰されていくのよ、結界を解放した途端それが始まる」
「それは絶滅ではない、若い命は次々と生まれ、続いている。虫人は無くした力はあるけれど、変わりに新しく手にしたものがある。あなたにもらった勇気や希望がね。それに……」
「なっぴはきっとミーシャやセイレを放っておけないでしょう?」
ラベンデュラがそう言った。
「ラベンデュラ様、もう少し若い命が生まれるまで、私がこの星にいた方が……」
「なんと、過保護な。マンジュリカ様に笑われますよ」
マイが二人の言葉を遮った。
「あーあ、もうたくさん。いつものなっぴらしくないって!」
「私が人間界から何度もマナを王国に運び込んでいた事を」
テンテンがなっぴにそう告げた。
「そして、あなた自身もレムリアに現れマナを残してくれた。それが何度も私たちが人間界と行き来できた理由なのよ、なっぴ」
ラベンテュラはなっぴが虫人達に少しずつマナを与え、それが虫人を進化させた事を説明した。
マイがもう一度なっぴに言った。
「らしくないって」
「今度は、俺たちが地球を救うためにマナトを送り出そう。文句がある奴は前に出ろ!」
「その通り、親衛隊が相手だ!」
「おいおい、反対する奴なんているか」
ピッカーがサイスを構えたガマギュラスとザラムを諭した。
「決まりだな。なっぴ」
「タイスケありがとう」
「お前意外に泣き虫だったな」
「馬鹿っ!」
突然、由美子が叫んだ。
「やるっきゃあ、ない」
次はリンリンだ。
「やるっきゃない」
それを聞き、テンテンも声を合わせた。
「やるっきゃない」
コオカもシルティも続く。
「やるっきゃない」
ラクレスとアイリスも、そして大合唱のおしまいには、なっぴが笑みを浮かべ拳を振り上げた。
「うん、やるっきゃない!」




