13.弱点
弱点
「残念だが、その娘は血の一滴まで吸い取ってやった。ただのゴミだ、そこに転がる「シュラ」より哀れな姿。その娘に手向ける言葉があるというのか、それとも今更ながらその娘に許しを請うつもりか?」
「完全に肉体が滅んでいる、なっぴ、なっび」
セイレが泣きながら、その身体を揺り動かす。
「無駄なことを、炭化し滅んだ身体は、この俺でさえ元に戻すことはできない。おまえたちがマナという『タオ』にもっとも近い、その力でもおそらく叶うまい」
ミーシャがダーマの姿に戻ったマルマを睨みつけ、そして「白龍刀」を抜いた。しかしその口元は心なしか緩んでいた。
「あなたにヒメカの術は有効で、炭化してしまえば、あなたでも再誕できないのね」
「お前たち、まさかそれを確認するために……」
「なっぴを救うには、こうするしかない。わたしを真珠に戻し、再び助けてくれたのは、あのオロスの巫女『ラナ・ポポローナ』、そして今度は私がこの剣を使う」
嘘の涙も乾いたエスメラーダが、二人のカイリュウに「バジェスの剣」を振った。
「竜化!」
緑と白の二頭の竜は二人の巫女を頭に乗せ、マルマに対峙した。
「ほほう、カイリュウの娘。その剣を使えるとは、驚いた。名を聞いておこう」
「クシナ・エスメラーダ・セイレ」
セイレはシャングリラ人魚、エスメラーダ人魚、七海の人魚はもちろんのこと、エスメラーダとして、アガルタの生き物の総意をここに集めた。もちろん、ミーシャも地上の生き物の代表である。白龍刀そして続いて緑龍刀がひらめいた。
「ウグゥエァ」
マルマは両腕を一瞬でもぎ取られた、それは炭化し粉微塵になった。しかし新しくまた萌芽した腕を伸ばし、その先から二人を狙い閃光が放たれる。二人の巫女をかばうのはカイリュウの長い尾だ、しかし強烈な閃光は難なくカイリュウの硬い尾を焼き焦がす。悲鳴のひとつもあげず耐えるカイリュウ。二人の巫女は二頭の龍に言葉もかけずにもう一度マルマに斬撃を浴びせる。マルマにそれは直撃した。
「グフゥ」
マルマの胸に十文字に傷口が開いた。しかもその傷は炭化していて再生しない。
「なっぴがシュラにしたように『寸止め』にするのよ、セイレ」
「了解、結構難しいものねミーシャ」
「お、おのれ。こしゃくな巫女どもが……」
しかしマルマの閃光はカイリュウの肩をついに貫いた。緑龍が倒れていく、その頭を踏み台にして緑髪の人魚が高く宙に舞った。一瞬気を取られたマルマの脇に向けて白龍刀が深く突き刺さる。セイレとミーシャは最高のコンビネーションだ。それはダルナとラナ、そしてなっぴと由美子を彷彿とさせた。ついに膝をマルマが折る、だが惜しくも地上の戦いにセイレは既に限界を迎えていた。傷付いた緑の龍はそれでもセイレをぐるりと巻きマルマを睨みつけている。竜化が解けたミコは身構えてセイレの前に立つ、役目を果たそうとミーシャをかばうのはタケルだ。その姿を見てマルマはこう言った。
「なるほど、お前たちはこの星の偉大な巫女だ。認めよう、しかしわしを超える事は出来まい。ヨミを浄化したという力は、どうやらここには既にないと見える」
気を失ったセイレの元に二人のカイリュウは寄り添った。たった一人残ったミーシャは白龍刀がひときわ輝くのを確認すると、それをまっすぐマルマに向け、次いで天に向けた。
「時は、今。奥義、アマテラス!」