129.兆し
兆し
そして、ルノクスに時が流れた。
「ルノクス科学研究所」の廊下を慌ただしく駆ける人影があった。
「フィーン」
カードキーが通過すると、グリーンのランプがつきドアが開いた。
「タイスケ、早く。遅れちゃうから!」
彼を研究所まで呼びにきたのは、すっかり王国の女王らしくなったマイだ。その後ろに長身の男が現れた。
「まだ何か設計しているのか、まったく熱心なことだ」
「武術大会は盛り上がりそうか?」
「ああ、一番人気はやはりフェンシングだ。ガマギュラスには悪いけど」
「あなたも、少しは頭使ったら?」
マイがそう言って笑った。
「ピッカーには無理無理。親衛隊長は君を守る以外興味ないらしい」
ガマギュラスの「冷やかし」にピッカーがあわてて、ひとつ咳をした。
セブリアの王宮は先日出来上がったばかりだ、城内でもそろそろ動きがあった。
「コウカ様、それは?」
「ああ、ちょっとした贈り物を作った、俺とラクレスのツノを削って」
「シルティ、私たちも忘れずに持って行きましょうね」
「フランヌと一緒に織った青いリボンをかけてと、そろそろね」
「よし、出かけよう。アマトの丘へ!」
ラクレスが腰を上げた。
再誕は叶った、なっぴは再び自分に命を預けてくれた虫人を全て彼等の記憶とともに「ルノクス」に再誕させたのである。ただひとつ、虫人の力が消えてしまった事を除けば……。
エビネ国の虹の村では、里帰りしたリンリンが着ていくドレスを選んでいた。
「スタッグ、これでどうかしら?」
「いいんじゃないか、きちっとしてて」
「ミンメイ、じっとしてて。ドレスがぐちゃぐちゃになってるわ」
「あらら、おめかししたわね。お母さんそっくり!」
「あっ、テンテンおばちゃん!」
「チッ、チッ、お姉ちゃんでしょ!」
「いらっしゃい、ドルク兄さんは?」
「先に行ったわ、信じられない。もっと妊婦をいたわりなさいっての」
「病人でもあるまいし、大げさなんだから姉さんは……」
もうじき、母になるテンテンは、それを聞いて呟いた。
「あっというまだったわね、あの日から……」
再誕の終了とともに、なっぴは倒れたのだ。それがパピリノーラが彼女に言った事だった。なっぴが体中にマナを取り込み虫人達を再誕した。その引き換えに、マナを全て使い果たし彼女はそれ以来ずっと眠り続けていた。
「虫人の力は消えてしまった、でもマイがレムリアの女王としてこの国を正しく導くはず」
ラベンデュラはそう言ってマイに女王の冠を渡そうとしたのだった。
「おいおい、王も決まっていないのに女王はないだろう」
「それもそうねキング、じゃあそれまで見習いね」
マイがつまらなそうに呟いた。
「ううん、また見習いかぁ……」
王宮に居会わせた五大巫女はマイの言葉で「見習いマンジュリカーナ」のことを思い出した。
虫人は、「マナ」を王国に増やすように動いていた。正しく勇気ある生き方を続けていれば、必ずレムリアに「マナ」は集まるはずだ。そしてそれが王国の虫人達の「行動規範」となっている。国民のための国づくりをめざし、キング、ラクレス、コオカ、エレファスそしてドルク=バイスの五王も、それを基本に国を治めていた。そんな中、ようやくその朗報が王宮に届いたのだ。
「マンジュリカーナ様にようやく兆しが現れましたぞ」