127.ツクヨミ発動
ツクヨミ発動
「カグマの願い……」
サクヤが記憶を引き出し始めた。虫人は完全ではない、いや完全なものなどどこにもありはしないのかも知れない。過去の記憶を無くしたくないために、サクヤはAIにまでその記憶を教え続けた事も思い出した。
「あとは……」
なっぴの顔つきが変わる、サクヤがハッとした。
「虫人の再誕については、あなたが決めなさい。あの日の約束、あなたは記憶を持って再誕した。もうあの時のイブではない、今ではカグマの大切な人となった……」
「その声はリリナ、リリナなのね。マンジュリカに最も近いイブ、リリナ・スカーレット」
サクヤは全身にマナの力が集まるのを感じた。「もしかしたら、叶うかも知れない。この星で虫人達は進化を続け、逞しく生き続ける事ができるかも知れない」
サクヤは「原始生命体」カグマにこう言った。
「カグマ、その者たちに、虫人の力を返してあげて」
「仕方ない、よし受け取れ!」
カグマが由美子たちの虫人の力を放出した。それを素早く受け取り、由美子とシルティが元に戻った。そしてなっぴの体から、テンテンとリンリンが分離し、二人とも「虹色テントウ」の姿に戻った。
「それでいいのよ、サクヤ。虫人の母となり、カグマの妻として命尽きるまでここで暮らしなさい」
そういうとリリナは消滅した、今こそ「ツクヨミ」の時だ。なっぴが天を仰ぎ見た。
「ツクヨミを発動します。この大地レムリアに最大のツチムスビを!」
なっぴの右手が天空を指す。
「ナノ・マンジュリカーナ!」
巨大な土塊が、ナノリアの周辺に幾つも現れた。その中には砕け散ったルノクスだけでなく、兄弟星「ゴリアンクス」や小さな惑星のかけらも混じっていた。次々と、ナノリアの大地に吸着してゆく。時折、衝突の際に大地が裂ける。平坦な大地に凹凸が作られ、加速度的に大地が膨らんで行く。次第に衝撃も凄まじくなってきた。サクヤがなっぴに避難するように言った。
「あなたたちは、あのカプセルの中へ。しばらく大地が活動をします」
amato2に戻ったなっぴには、それはほんの僅かのことに感じた。その偶然のきっかけで動き始める星の誕生。そこから時間が始まり、そこから生命が生まれることをなっぴたちは深く記憶した。やがてマグマの活動も収まり、地球と同じように蒸気が冷え、海が窪みに溜まった。ゆっくりとカプセルの扉が開く。その先にはサクヤとカグマの姿はすでに無かった。「生殺与奪」の剣が大地に突き刺さっているだけだった。
「二人とも消えてしまった……」
マイが両膝をついた。しかし、なっぴは落ちついていた。
「大地はカグマ、そしてサクヤは全ての生命の源、海となった」
なっぴの右手には鍛え直された「生殺与奪」の剣が握られていた。なっぴの髪が長く伸び、その一本づつが生き物のように広がって、逆立つ。
「いざ、この星に生命を吹き込まん。ツクヨミ発動。ナノ・マンジュリカーナ!」
再度、剣を逆手に持ちなっぴは大地を突き刺す。
「ドクン」
短い、しかし星の中心深くで、力強い鼓動がひとつ打たれた。その音が星の「始まり」なのだ。剣はやがて白い土塊に変わった。