126.アダムとイブ
アダムとイブ
次元を超える力は、アマテラスの力を使う。それをなっびのサポート役としてマイが増幅させた。それでもルノクスまではあまりにも遠い。時間のひずみを何度も超えて、ひとつの流星が宇宙の辺境に現れた。そこは虫人と呼ばれる知的生命体の星があった場所だ。今は強力な磁場がまだ残っている事だけが、かつて星がそこに存在していたと証明するだけだ。
「タオ様、マルマが参りました」
白いその空間は「ビッグ・バン」のままだ。その空間に第三番目の「神の子」が初めて現れた。彼は変わらずグニャグニャのままだったが、ヨミは実体を持つマルマのことを実はうらやましく思っていた。
「タオ様、あの虫人の星をマンジュリカが再誕させようとしております。それをどうか承知していただけないでしょうか?」
「お前の星だった、あのルノクスはすでにブラック・ホールと化している……」
タオは静かに答えた。
「もう一度虫人達にマナ様の光をいただけないでしょうか」
「お前はここに戻るつもりで来たのか、それともまだ隠れ続けるのか、その辺境の星で」
「もう二度と隠れはしません、タオ様の元へ参ります」
「そうか、お前まで変えてしまったか、あのマンジュリカの認めた娘は……」
「では、私の力をあのブラック・ホールに込めましょう」
マナはそうマルマに答えた。
目前のブラック・ホールに異変が起こる。消滅した星は周囲の光さえ吸い込む強大な磁場を発生する。その中心にマナから送られた絶える事の無い光が帯となり吸い込まれていく、やがてそのブラック・ホールが光り始め少しずつ消滅していった。
「これで良いのであろう、マルマ、わしにもっとも近い子よ」
タオはそう言ってマルマの体を浄化した。
そこへなっぴたちが現れた。
「あれっ、ここがルノクスのあった場所?」
「不思議ね、磁場もそれほど狂っていないみたい」
「これなら星を再生させても回りに影響はないだろう」
タイスケがなっぴにそう言った。それを聞きなっぴは心から感謝した。
「ありがとう、タオ、マナ、ヨミそしてマルマ」
なっぴの声が通じたのか彼女に確かに届いた言葉があった。
「手伝えるのはここまでだ、見習いマンジュリカーナよ」
「まあ、ヨミ様ったら」
「サクヤのことを頼むぞマンジュリカーナ」
頷くなっぴはサクヤとカグマの結界をほどく、二人の炭化がさらさらと溶け始めた。なっぴが由美子から黒龍刀をそしてシルティからミーシャの白龍刀とセイレの万龍刀を受け取った。それに七龍刀を重ねた、これが「生殺与奪」の剣、セイレが地球に残した肋骨だ。なっぴはそれをサクヤにそっと握らせた。
「一体、私に何をさせるつもり、人間の遺伝子情報もない虫人を再誕させよとでもいうの?」
サクヤには、虫人の再誕は無駄な事の繰り返しに映った。
「あなたたちはこれからこの星のアダムとイブになるのよ」
なっぴは微笑んでそう言った。
「アダムとイブ。この星……?」
サクヤは不思議そうに尋ねた。空間に浮かぶレムリアの事だろうか、結界の中の異次元空間、それを「星」になぞらえるこの娘は随分と大げさな娘だと思った。
「あなたは私たちに新たな虫人の創始の神になれというの」
「そう、それがカグマの変わらぬ願いだったはず」
なっぴはそうサクヤに答えた。