125.ルノクスへ飛べ
ルノクスへ飛べ
amato2はハニカム・モニターが消え去った代わりに、内壁いっぱいに、オロスの草原を映し出している。アマトを開いたなっぴは、それを使って人間を地球に残さねばならない。由美子、テンテン、リンリンの三人は櫻井博士の末裔である。しかし、三人は虫人との絆が深い……。なっぴの一番の悩みはそこだった。香奈が独り言のように、なっぴに話した。
「マンジュはミコト(カブト)、里香おばあちゃんはシラト(カイリュウ)と結ばれた。そしてあなたのお父さんは、普通のエンジニア。いいんじゃない、なっぴが決めてあげたら?」
聞けば、香奈はそう言ってなっぴに笑いかけた。
「そんな、決められないよ……」
それどころか、セイレもミーシャもなっぴが開いたアマトを、くぐろうともしない。
「なっぴと一緒に、ルノクスに行く」
「私もセイレと同じよ、絶対動かない!」
そう言うとミーシャはコックピットにしがみついた。
「馬鹿野郎!」
タイスケが二人の頬にビンタをくらわせた。
「行こう、セイレ、ミーシャ」
タイスケは、少し閉じ始めたアマトを見て、二人を諭した。しぶしぶ二人はアマトに近づく、そして立ち止まりなっぴにこう聞いた。
「必ず、戻って来るわね、なっぴ?」
頷く彼女を見て、ようやく安心したセイレは、アマトをくぐった。海底王国「アガルタ」の「エスメラーダ」は、シルティから分離した彼女の母「里奈」に手を引かれ次元を超えた。
「次元を超える力を使い果たし、その後どうやって戻るつもり?」
さすがにミーシャは鋭い。なっぴの顔が曇ったのを見て、香奈が助けた。
「マンジュリカは虫人の総意、再びなっぴの元に集まります」
それが十年なのか百年後のことなのか誰にもわからない。ミーシャはなっぴをそれ以上、苦しめるのをやめた。
「そうね、今度オロスの素晴らしいオーロラをみんなで見ましょうね」
「きっと、セイレは凍りつくわね……」
「なっぴ、きっとよ」
ミーシャが背を向け、なっぴに泣き顔を見せずにアマトに消えた。
「ミーシャったら」
美奈もその後に続く。アマトが次第に閉じて行く、香奈はもう一度なっぴを見て言った。
「このカプセルに詰められているのは、みんなの思い。決して尽きないあなたへの思いも一緒に、彼方の星に連れて行きなさい」
香奈が背をかがめてアマトをくぐろうとした。タイスケが続く、それを感じて香奈が振り返り、こう激怒した。
「か弱い、女の子を一人で行かせるつもり!」
「……」
「なっぴのこと、泣かしたら炭化するわよ、タイスケ」
「はい」
アマトが閉じ、タイスケが振り返った。
「いいの?」
「まあ、地球よりお前の方が少し魅力的だからね」
「馬鹿……」
「……コホン、ところでなっぴはツクヨミについて知っているの?」
「詳しくは知らない」
「やっぱりね」
「由美子、どうしよう。パピリノーラも消えてしまったし……」
「マイだけが頼り、何かみんなから聞いてる?」
「ツクヨミは一度きりしか使えない、創始の術。それを三巫女に分散させたのだと、それは今あなたの元へ集められている」
「うん、うん。それから?」
「そこまでしか聞いていない。後は考えろ」
タイスケだ。
「まずルノクスのあった場所までこの空間ごとテレポートしなくちゃな、できるか?」
「うん、マイも手伝ってくれる?」
「そして、ツクヨミを使い星を生む。それができるのは虫人の創始の神、マンジュリカだけだ。全ての龍刀は一度きりのものだ、その後サクヤの元に戻ってしまう」
「タイスケ、いったい虫人の再誕は誰がするの?」
「解らない、そうだな、みんなの思いを受け止めてくれるものだろう」
「二人の炭化がもう溶けそうになっている、急いでなっぴ」
amato2に入り、次元を超える衝撃に備えるのは由美子、マイ、タイスケ、シルティだ。なっぴはサクヤとカグマの側で二人に結界を張り終えるとこう叫んだ。
「ストラルーダ・レムリアーナ、ルノクスーレ!」
それはレムリアをルノクスの存在していた空間へ飛ばす呪文だ。異次元に作られた「レムリア」はついに地球から旅立っていった。