122.聖三神の巫女
聖三神の巫女
異界での術式はもちろん、二人には経験は無い。しかし、たった今、母達の戦いを間近で見た二人には、すでに「伝授」されていたも同じだった。マーラの槍をゆっくりと回しながらまずセイレがダルナから伝授された嵐の呪文を正確に唱えた。
「ダルーシャ・ナム・ルツ。嵐よあれ!」
今度はミーシャが吹雪の呪文を最大級の術式で唱える。
「オローシャ・カクラーナ!」
猛烈な吹雪がカグマとサクヤを包んだ、そして二人は同時にこう叫んだ。
「オローシャ・カムイリカ」
その氷結の呪文により前後左右から一気に吹雪が凍り付いていく。カグマとサクヤをいくつもの氷と雪の層が包み氷結していった。まさしくそれはラナとダルナのコンビネーションのなせる技だった。極低温の中、生命維持を優先した原始生命体は「ゴラゾーム」の活動を停止した。一見すると「石化」に見える、だがそれは永遠のものではなかった。しかしオロスでビドルと戦い続けるなっぴを力づけるには十分だった。
「一体、何が起こっている。二人に抗う力など、レムリアにはもう残っていないはずなのに……」
動きの止まったカグマとサクヤを確認し、ビドルは信じられないという表情を続けた。そして動きの止まったカグマとサクヤを確認すると、対照的になっぴは反撃を始めた。
「いくわよ!」
バイオレット・キューの回転が速度を上げた。ビドルは負けじと浄化の光を放つ、だがキューの起こす風はその光さえ曲げていく。
「ば、馬鹿な、光が曲がるなどあり得ん……」
ビドルは我が目を疑った。しかし、これは事実だ。浄化の光はなっぴの体を避けて通り過ぎ、一筋の光になり消えていく。
「くっ、これならどうだ」
浄化の光で球体を作り、ビドルは左右の手から次々と彼女に投げつけた。
「カン、カン、カン」
キューを使い慣れている彼女は、片っ端からそれを跳ね飛ばした。
「何故、浄化の光が効かない。そのキューは虫人の宝玉から成ったものではないのか?」
「答えてあげましょう、ビドル」
彼女は、バイオレット・キューをビドルの喉元に突きつけたまま、こう言った。
「このキューは、テンテンがメタモルフォーゼをしたもの。テンテンの生体エネルギーそのもの」
「その虫人のエネルギーが何故、この光で浄化されないのだ?」
なっぴが答えようとした。しかし、その前に彼はその答えに気がついた。
「すでに、虹色テントウの娘は、進化したというのか。この星で……」
「少し、違うわ。テンテンをキューに変える力を与えたのは、連れて行かれたこの星の巫女たち。シルティ、セイレ、ミーシャ」
「何だ、あの巫女たちか……」
「こういった方が好きかな?パピリノーラ、クシナーラ、オロシアーナ」
「聖三神の巫女様だと!」
「アマト、それが開いた以上。覚悟の上だったのでしょう、ビドル」
「何が、だ」
「聖三神の巫女が揃うこと、そしてルノクスが蘇るためにあなたが犠牲になろうとしていることを私は知っている。ヨミもラグナもヒドラもそうだった、虫人たちの星ルノクスをもう一度、宇宙に創生するのがビドル、あなたの最終目的だったのでしょう」