120.希望の火
希望の火
「もう無駄に時間をかけるのはやめましょう、その後にいる二人の巫女をご覧なさい。それぞれの力を抜き取っても、人として生きている。あなたもシルティに戻りなさい」
「私は、パピリノーラの力を無くしてもかまわない。でも、あなたにそれができるのかしら。地球の聖三神から続く巫女たちは決して消えさることは無い。この星のある限りね」
「決して、消え去ることはない。この星の巫女は……」
繰り返しそう呟くのは、ミーシャだ。
「なぜ、パピリノーラはあんなことを、もしかしたらここは……」
セイレにパピリノーラが振り返り、微笑んだ。
「この場所は地球、しかもオロスにある異次元の空間。ようやくそれに気づいたのね、クシナーラ」
セイレが、パピリノーラをかばうように外に出ていった。そしてミーシャも進み出る。セイレはサクヤとカグマに、こう言って恫喝した。
「ここが、地球なら私の思いはきっとアガルタに通じるはず。アガルタの女王をみくびるな!」
それを聞き、パピリノーラは目の前の二人に彼女の持つ力を注ぎこんだ。それは僅かだ、しかし二人に希望の火を、再びともすには充分だった。
「わしにも見えるぞ、ちっぽけな光が。だがそんなものでどうする、お前達の持つ力の殆どが消えた今、抗う術などありはしまい」
カグマが哀れむ様二人に言った。
「エスメラーダの人魚をなめるな!」
「何だと!」
「ミーシャ、お願い。タマヨセを使って!」
セイレが三体の小さな人魚の像をミーシャに手渡した。
「何をするつもりだ、そんな小さな人魚が、巨大な龍にでも変わると言うのか?」
「私にはもうクシナの力は残っていない、そう思っているの?おあいにく様、エスメラーダにはアガルタの人魚がついている。ようやくわかった、人魚の試練の意味が……」
再度セイレが、ミーシャに頼んだ。
「ミーシャお願い、エスメラーダ人魚をタマヨセして、そしてもう一度やるのよ、虫人達の再誕のために!」
「そうこなくっちゃ、あなたの髪、声、足それを何の意味もなく、人魚が取り上げるはずはないと私も思っていた。ようし、この星の最高の巫女、ヒメカよオロシアーナの奥義、とくとご覧あれ!」
アマオロスの力を降ろし、オロシアーナは奥義「アマテラス」を使った。
「オローシャ、フリフノーレ!」
パピリノーラからもらった最後の力を使い、ミーシャは術式を組むとタマヨセを行なった。天空からエメラルドグリーンの光が降り、次々と三体の小さな人魚を刺す。そして再び天空は元のように閉じた。続いておこる沈默は、やがて懐かしい声で破られた。
「エスメラーダ人魚、マーラ!」
アマオロスの力を降ろし、オロシアーナは奥義アマテラスを三体の小さな人魚に使った。振り出される、人魚のひとつから槍を持ち現れたのは、かつて七海の人魚を束ねたマーラだ。
「ついにこの時がやって来たのですね。マーラの槍はこの通り、曇りひとつございません。これであのお方とともに戦いなさい」
マーラの槍を受け取り、セイレはその柄から七海の人魚の力を受けとった。セイレの身体にアガルタの力が満ちて来る。それを確認すると人魚は次第に輪郭が薄くなって行く。
「これで本当にお別れでございます。
「マーラ、今迄ありがとう」
「あら、泣き虫はかわりませんね」
「マーラったら……」
セイレはマーラの槍をまっすぐに構えた。