12.甦りしもの
甦りしもの
セイレの回復の呪文がタイスケの体を包んだ。それはヒドラボールに似たエメラルド色の繭、彼女を「アガルタ」でダーマたちから隠し、再び誕生させた「ラナ・オロシアーナ」と「香奈」が使ったあのマユだった。その中でタイスケは再び息を吹き返す、ゆっくりと息を吸い込んだタイスケは、低い声を発した。その体を借りて甦ったのはなっぴに浄化された「ヨミ」だった。
「マルマ、お前の思いはかつてのわし、そしてオロチと同じだ。いいか、この者たちはつかの間の生を楽しんでいる。しかも幾多の悲しみや後悔を繰り返して……」
その声を聞くとマルマは答える。
「ヨミ、その先にあるものはなんだ、何を手に入れようというのだ、それこそわしたちと同じ『不老不死の力』ではないのか?」
少しの沈黙の後、ヨミは答えた。
「不老不死とは、永遠に死なない。いや『死ねない』ことにマルマ、お前は気がついたのだろう。リリナと出会い、そして彼女を愛しく思い始めた時に……」
次の『イブ』となる「リカーナ」が覚醒した時、リリナは突然に死んでしまった。その時の悲しみの感情が、マルマを変えてしまった。マルマは死んだリリナを諦めきれずついに再誕させる、しかしその魂は全くの別物だった。再誕した「それ」を見る度にマルマは罪悪感を禁じえなかった。リリナの顔をしただけの「それ」をうとましく思い、マルマは「それ」をついに辺境の星に封じた。それがカグマの見つけた「サクヤ」の原型になった。「マルマ」の肉体は滅んでしまった、しかし精神は宇宙を永遠にさまよっていた。やがて火星の先住民族と結びついた。その子孫が「ラグナ」たち、つまり「ダーマ」なのだ。ダーマは地球に飛来し、その子孫は「カンブリア族」と呼ばれるようになる。一方、リカーナは地球に向かう途中「レムリア」の中でマンジュを産み、リリナから受け継いだその『再誕』の力を禁呪としてマンジュの体に封印したのだ。
マンジュリカーナの持つ「メタモルフォーゼ」の力は、その時封じられた『再誕』の力である。その力は元来マルマのものだった、神の子マルマの持つ『不老不死』故の苦しみを、リリナそしてリカーナは自身に封じ続けてきたのだ、そのため全ての生き物は限りのある命となった。代々の「イブの決断」が果たして正しかったのかその答えはまだ出ない。
復活のマルマ
串刺しにされ、業火に焦げ、消し炭のような身体に変わり果てたなっぴから、鮮血と共に「マルマ」が抜け出した。「マルマ」はなっぴの身体に辛辣な言葉を浴びせた。
「思いの外、快適だったがまあいい、仲間さえ見捨てるような巫女は『リリナ』の足元にも及ばぬわ。さあヨミ、わしと戦ってみるか? この星を賭けてもいいぞ、クククッ」
しかし、ヨミはタイスケの体を少しも身構えようともしなかった。
「マルマよ残念だが、わしはこの娘に『浄化』されてしまった。それにヒメカそしてクシナの末裔は、この娘にまだ望みをつないでいる……」
「なんだと、こんな消し炭にまだ望みをつないでいるだと?」
イブとして幾多の命を分け与え、大いなる母となり、リカーナにその役目を引き継ぎ死んでいったリリナ。虫人たちを原始生命体にまで融合させることが可能な「力」を得たリカーナは、「ゴラゾム」との間に「マンジュ」を、そして「ビートラ」との間に「アロマ」を産んだ。
「リリナよ、おまえは何故あの時、わしが分け与えた『不老不死』の力を使わなかった……」
マルマはなっぴの身体から半身を乗り出し、「消し炭」を振り返りそう呟いた。なっぴの身体と融合し、その記憶の全てを覗いたマルマは、その時代の主人公にでもなったような気持ちになった。ほんの束の間の一生にこの者たちは、なんと多くの試練を超えるのか。マルマが気の遠くなる時間をかけて、ようやく気づいた命に限りのある意味、リリナが「不老不死」を封印した訳を知るのである。だが、それでもマルマはヨミとは違っていた。
「わしは、ヨミ、おまえとは違う。わしの身体は長きにわたり、進化を遂げた。ダーマそしてヒドラがわしのこの星での姿となる、今こそこの星の原始生命体『ノア』を使い、創造神として蘇ろう!」
ダーマの入ったカプセルを拾い上げると、マルマは呪文を唱えた。
「ラグナ、ノア!」
その呪文はダーマの入ったカプセルを包む「ブルー・ストール」をほどいた。転がるカプセルに「ヒドラ=ナナ」が強引に吸い込まれていった。それを止める者はすでにいない。なっぴの身体を完全に捨て去り、マルマは次の新しい身体をとうとう手に入れた。この星の二人の巫女は、炭化し、ひからびたなっぴを抱き起こした。マルマがその姿を見て、嘲り笑った。