119.最後の巫女
最後の巫女
「この星で生きるには、虫人を捨てるしかない。メタモルフォーゼは捨て去るしかなかった。何故なら、マナとヨミは互いに反物質だから……」
「メタモルフォーゼはマナとヨミの力を融合させて生じるエネルギーを利用し、虫人の持つ特殊な細胞『ゴラゾーム』を変異させ姿形を変えること、それはカグマが導き出したメタモルフォーゼの真実だった」
「そのエネルギーは、使い方を誤ればこの地球の生き物を死滅するのに充分だった」
「だけど、それを使わなければいいのでしょう」
「なぜ来訪者がこの地球の生き物達の未来を握るの?切り札をちらつかせる虫人と人間たちが共に暮らしていけると思うの」
「それが、リカーナが異次元に虫人達の国を封印した理由……」
しかし、彼らはやがて進化していく。試練を乗り越えるたびに、虫人達は強く固く結ばれていく。それに合わせるかのように、王国の結界は解かれていった。
「あなたにはわからない、故郷を無くしたものの気持ちは」
「だからといって虫人の誕生プロセスに、人間の遺伝子情報を滑り込ませようとする理由になんてならない」
「どうやら、あなたとは考えが違う、パピリノーラ」
と、いきなりサクヤはカプセルに向けて攻撃をした。次々とまばゆい閃光がセイレたちに向って行く。パピリノーラの背後に立つ、セイレとミーシャがそれでも避けるどころか、「かっ」と両目を見開き身構えた。
「ともに立ち、ともにたたかう者を傷つける訳にはいかない」
パピリノーラの背から純白の翅が広がり、その閃光を受け止めた。彼女の翅はその引き換えに使いものにならなくなった。
それを見て、サクヤがゆっくりと「amato2」に向けて足を進めた。
「パピリノーラ、あの二人は何のために戦っていると思う?」
「マンジュリカーナは、虫人達の再誕のため。ビドルはマンジュリカーナを救うためだと言っていた」
「ビドルは、知っていたのよ。あの娘がマンジュリカになってしまうことを、このままでは元のあの娘に戻れなくなることを……」
「人間に戻れなくなるって?」
絡みつく虫人達の遺伝子情報、変異するゴラゾム細胞は、なっぴの体をマンジュリカに作り変えてしまう。もはや不可分なものとなっているのだ。
サクヤはカグマに命じた。
「さあ、パピリノーラのその力をその手にするのです」
「グルルルン、パピリノーラ……」
原始生命体バジェスは、カグマに注がれたマルマの再誕の力を使い、虫人の遺伝子情報を組み合わせていった。言葉も記憶も学習し、地球の筆頭巫女「パピリノーラ」の力を手にしようというのだ。
「サクヤ、わたしが戦ってしまったら、この星は消滅してしまう。それを知っていながら……」
「そうだったわね、だけどカグマは止められない。何故ならビドルがあの娘を浄化してしまうとルノクスは、消えてしまうから。カグマはそれをきっと許さないでしょう」
右手を長いソードに変化させ、カグマはパピリノーラに近づいていった。
「パビリノーラ、あなたは戦いの巫女ではない。でも、ルノクスの復活にどうしても必要な力を持っている。悪く思わないでね、さあカグマ」
「ギギッ」
サクヤの放った閃光に翅を貫かれ、動きを封じられたパピリノーラにカグマは容赦はしない。短い返事をすると、右手を変形させたソードを思い切り斬りつけた。
「ガキッ」
それをかいくぐり、パピリノーラは危なげなくソードを避ける。地面をうがつ、ソードの音が聞こえた。