118.石化した原始生命体
石化した原始生命体
彼女は思い出した。なっぴが「昆虫王国」を闇から守るという自分の「使命」に快く賛同してくれたことを、なっぴが最初に手にしたのが「バイオレット・キュー」だった事を。そのキューは「テンテン」そのものだったのではないかと。
「そうか、私もなっぴといつも戦っていた、巨大な闇、それがシュラ……」
彼女は一度微笑み、深く頷くとなっぴの心に響くように叫んだ。
「我に戻れ、バイオレット・キュー!」
彼女の言葉を待っていたかのように、宝玉は紫色の輝きとともにストールから消滅した。
「テンテン、ようやく気付いてくれたのね。私達は虫人の浄化など認めない、絶対に認めるもんか!」
そう呟くなっぴの右手には「テンテン」が生命を賭して、変形させた「バィオレット・キュー」がしっかりと握られていた。
「馬鹿な、お前の持っていた虫人達の遺伝子情報は、とっくにレムリアに転送されている、そして今頃は新たな原始生命体に戻っているのだぞ」
「あら、どうかしらね。原始生命体の成長は止まっているようだけど?」
「な、何だと、そんなはずは……」
「ビドル、その目で見てみたら」
今度は彼女がバイオレット・キューを使い空間を切り裂いた。
「何だ、あれは。サクヤは、カグマはどうなってしまったのだ」
二つの原始生命体は石化し、その動きを停止していたのだった。
「ビドル、あなたは私達を少し見くびっている。虫人は肺の代わりになる気管を独自に進化させていたのよ」
「では、この星で生きていけるというのか?」
「いえ、残念だけど。それにはまだまだ時間がかかる、だけど」
「だけど?」
「近い将来、それは可能になる。創始はもういい、彼等はもうそれをはじめている。ビドル、いえマルマ。あなたの子どもたちは立派な人型を得て、独り立ちをはじめようとしている。何度も人間界と行き来する内に、その力を逞しくしていった。そう、テンテンのようにね」
「だからといって彼等を再誕させ、異次元に封じ込めて何になる。それは鳥かごの中の自由だ、お前はそうは思わないのか?」
「私達だって、地球という鳥かごの中で生きているのに過ぎない」
ビドルは彼女の言葉を繰り返した。
「鳥かごの中で……」
ビドルはブルっと首を振った。そして石化し、成長を止めたサクヤとカグマを見つめ直した。誰が原始生命体の成長を止めたのか、彼には想像もつかない、ビドルはもう一度思った。
「誰が……」
異次元のレムリアへと、少し時間は遡る。
「サクヤ、あなたたちは虫人を捨てて人間にでもなるつもりなの?」
「私達は、特殊な能力を潜在した虫人。今更この星の人間になるつもりは無い」
「メタモルフォーゼ」を持ったまま、この地球で暮らすつもりだとサクヤはシルティに答えた。
「そう、では、なおさらこの星はあなた達を受け入れることはできない」
「何故、リリナはその能力を封印したの。使いようによっては星ひとつ手にするのはたやすかった筈なのに」
「それが間違っていることに、気が付いたから……」
シルティは徐々に別の人格を持ち始めた。
「リリナの娘、リカーナが虫人を異界の結界に封じた理由をあなたに教えてあげます」
「あなたは、それを知っているの?」
「わたしはパピリノーラ、この星を託された筆頭巫女。聖三神の一人、ツクヨミ様の光を受けて生まれた。創始の巫女」
「ドクン」
ミーシャとセイレの鼓動がここまで聞こえた。
「そんなことあるはずがない」
そうマイは打ち消そうと首を横に振った。それほど二人の巫女は彼女の言葉に特別な反応を示した。
「さっきとは違う。シルティはお母様達の力を融合し、パピリノーラに覚醒している」
セイレもミーシャも何かが突き上げてくるのを感じた。クシナ、ヒメカの力を無くしている二人が今更それを感じるのが虚しかった。