114.届け、アロマの力
届け、アロマの力
レインボーのストールに輝く七色の宝玉、赤色のそれはナノリア女王ラベンデュラの守護色だ。それがビドルにより浄化の拳を打ち込まれるうちに変異していく。次第に小さな径となり、ついにはストールに沈んで消滅した。
「なんなのこの感じ?」
なっぴが気付く余裕すら与えずに、ビドルは次から次へと拳を繰り出す、ひたすら防戦するなっぴ、だが橙色の宝玉もスカーレットの遺伝子情報とともに彼女のストールに沈んでしまった。
「なっぴ、あなたが虫人達の命を守りたいと思ってくれるのは嬉しい、でも……」
テンテンはストールに消えていく七色の宝玉が次々とレムリアに虫人の遺伝子情報をテレポートしているのを感じていた。ラベンデュラ、スカーレット、バイオレットの「フローラの三姉妹」に続き、リカーナの娘トレニアの娘「ヴィオラ」と「アイリス」もまた転送され、カグマに吸収されようとしていた。
由美子の回復のため、インディゴ・ソードはヨミ族の総意を注ぎ込んだ。彼女は櫻井博士の末裔、虫人たちに命を助けられた。テンテン、リンリンとは姉妹以上の関わりを持つ。しかし、浄化の光にヨミ族の意思が優っている事実は信じ難い事だった。
「ビドルは、私たちに何か隠していることがある。だから私になっぴの説得を促しているのに違いないわ」
テンテンはビドルをスキャンした。しかし何も無い、彼の体の中には捻れた空間があるだけだった。
その空間にバイオレット・キューは吸い込まれ、消え去った。浄化されたアイテムたちはどこへ消えたのか。テンテンはレムリアに向けて、念波を飛ばして見た。緑と青の宝玉がレムリアに引き寄せられている。しかもその宝玉にはヴィオラとアイリスの意思を持ったままだった。
「……あれがサクヤ、隣りがカグマ?」
「カグマはまだ人型になっていないけれどそうでしょうね。アイリス、わかっている? ターゲットはシルティ。私たちがカグマに吸収される時、虫人の情報とアロマの力が分離する。そのわずかなタイミングしかないのよ」
ヴィオラが続いてアイリスに促す。
「ヒメカ様がオロシアーナをお産みになったように、アロマの力をもう一度シルティに注ぐ、シルティに未来を賭けてみましょう。さあ、私たちの意識が消え去る前に……」
「サキ=ヴィオラ」と「フランヌ=アイリス」が、ルノクスへテレポートされた。アロマに育てられた二人はこの星の力を合わせ持った巫女だった。しかし、その力は細くて弱かった。
「だめだわ、シルティまで届かない。あああーっ」
ヴィオラはアロマの力を練り上げた「螺旋の糸」をシルティまであと僅かにまで伸ばしていた。しかし途中でカグマに次第に吸い込まれていく。
「姉さん、借りるわよ。シルティ受け取って!」
アイリスがその糸を握り、もう片方の手を糸に変え、シルティを狙って伸ばしていく。しかしカグマはそれを見逃しはしない、アイリスを引き込む力が増していった。
「哀れな、飲み込まれる運命の者たちが、もがき抗う姿は見苦しい……」
サクヤはそう言うと、真っ先にルノクスに届いた「七龍刀」を握り、その細い糸を狙って振り下ろした。
「キン!」
その琴線は「七龍刀」を弾き返した。あり得ない、サクヤの表情が見る間に変わった。アイリスの伸ばした糸がシルティの細い指先についに届き絡まった。そこへ近づくのは藍色の球体だった。
「あの藍色の輝きは、由美子の宝玉。またなっぴが浄化されてしまった」
「こっちに向かってくる、しかもインディゴ・ソードに変形して」
カグマがヴィオラに続いてアイリスを吸収しようとした。アロマの力が糸を伝わりシルティに届く。張り切った糸は、今度はその先のシルティを飲み込もうとする。彼女を手繰り寄せていたその糸をインディゴ・ソードが断ち切った。反動で奥に倒れるシルティを香奈がしっかり受け止めた。
「まあいい、これで最後の虫人の遺伝子情報を手にした。カグマ、今度はあの子たちの番。呼吸器官の遺伝子情報をコピーした後、新しいイブによってこの星に新しい虫人が生まれる」