110,役目
役目
「異界のルノクスにサクヤが生まれたことを知った彼は、ここを新しい王国にしようと思った。最初はこのまま滅び去る運命の虫人たちと共にひっそりと暮らすつもりだったんじゃあないかな?」
そう話し始めたのは、タイスケだった。
「何故そう思うの」
ミーシャが言うとタイスケはこう答えた。
「amato2のシステムには、不思議なAIが組み込まれている、それはサクヤに反応するものだ。そのシステムにはamato2をルノクスへテレポートするよう組み込まれていたんだよ」
「AIが組み込まれていた?」
「いつ、誰が?」
たて続けにミーシャとセイレがタイスケに聞く、しかし答えはない。
「私の記憶の中に嘘が入り込んでいる、それは、一体誰の嘘なのですか?」
マイはもう一度、香奈に問うた。
「虫人の情報、ミーシャ、セイレの力、巫女たちの呪力はなっぴに集められている。それをここに呼び寄せる準備はすでに整っている。ただひとつなっぴにない、アロマの力を除いて」
「アロマリカーナの力……」
「リカーナはバジェスから発芽した女神、ノアから発芽した男神ゴラゾムからマンジュをそしてもう一人の男神ビートラとの間にアロマを産んだ。その際、宇宙に広がるマナはマンジュに集められた。地球で産まれたアロマには、ツクヨミの放つ再生の光が集められた」
香奈の話は続いた。
「ツクヨミとは創始の源、しかも一度きりのもの。それは大地と海と天界に分けられた、オロスの巫女オロシアーナ、アガルタのエスメラーダ、そしてレムリアのパピリノーラこと巫女アゲハ、シルティに……」
「シルティが私たちと違った不思議な力を持っていたのは、そういうことだったのね」
マイはシルティの巫女アゲハの力を思い出した。シルティに預けられたミーシャの母「美奈」の巫女装束。フローラ三姉妹を呼び戻すために、ヨミの扉を開けさせた巫女舞。次元を超えることのできるシルティの力はマンジュリカーナにさえ匹敵するものだ。
「その力を、必要としたものは、まず、あなた達がルノクスで切り刻まれるとマイに覚え込ませた。新たなインセクトロイドには、あなた達の力では到底勝てないのだと」
「あのインセクトロイドは、まだまだ未完成だった、それなのに何故?」
「セイレ、あのインセクトロイドは私達を倒すために現れたのではない、まったく逆、私達に倒されるために作られたのよ」
「シルティ、何故そんなことのためにインセクトロイドを作ったの?」
「そうか、AIにアロマの力をコピーしたのか……」
「タイスケの言う通り、ご覧なさい。AIを破壊しても彼らは消滅しない、しかも少しずつ変異している」
「まさか?」
「私達の力を一体づつ、あのインセクトロイドのAIはコピーした。異次元にあなた達が残していた、未完成の土地を見つけて『新しいルノクス』を創始しようと、彼は私たちをここに呼び寄せた。美奈、里奈そして私の力もたった今コピーし終えた。その姿を見て、誰だかわかるかしら?」
シルティは、重なり合って倒れたインセクトロイドが残した、AIを包む螺旋状の外箱を指差した。
「ゆっくり、ほどけていく……」
「マイ、AIとは原始生命体と同じ。それを作ったカグマはサクヤのイブとしての力をその身に受け継ぎ、その引き換えに聖三神として浄化されたのよ」
「AIを使い、私たちの力をコピーしたのは、ビドル……」
香奈がその名前を告げたのに呼応して「ハニカムモニター」になっぴの姿が映し出された。そこは別の次元、しかしそこもまぎれもないこの地球だ。
「あの娘が今戦っているのは、ビドルの実体化した姿。それが役目を終えた時、ルノクスに創始の神が生まれる、男神カグマ、女神サクヤ……」
そう香奈が説明した。