11.この星の巫女
この星の巫女
「なるほど、闇に落ちたこの娘の力をおまえたちが、押さえ込もうというのか。やってみるがいい、わしを倒せるものならな」
「闇のなっぴ」となった、マルマは迷彩に輝きを変えた羽でふわりと飛び上がり、紅蓮の炎を吹きつつ「オロシアーナ」を襲った。難なく氷結呪文がそれを凍らす、そして今度は無数の氷の槍がマルマに向かっていった。
「その程度の術、わしに傷ひとつ負わせられようか。この辺境の星の巫女どもが、ぐっ!」
素早いマルマはその氷の槍を難なくかわした。しかしその氷の槍は「カムフラージュ」だった。マルマは腿を槍の間に隠してあった「エスメラーダ」の細い髪の毛に突き刺された。
「ククククッ、人魚の髪の毛に俺を殺すほどの毒でも仕込まれているのか?」
ミーシャは「白龍刀」を使い、マルマの攻撃をかわし続けた。そして白龍刀を天にかざした。天空に輝きが戻った、巨大なオーロラが風に揺れる七色のカーテンのようにひらめく。
「天地開びゃくの神、アマオロス。オロシアーナとともに、あれ!」
ミーシャが呼び出した「オーロラ」が白龍刀に吸い込まれ、赤、黄、橙、緑、青、藍、紫と順に七色の輝きを増す。その刀はマンジュリカーナの「七龍刀」に酷似していた。
「もう一度言う、その娘を返し、この星から消え去れ!」
ミーシャはそう言い終えると、白龍刀に込めた「オーロラ」を「闇のなっぴ」に向けて放った。オーロラがマルマを包み、なっぴから闇を引き剥がそうとする。
「くくくっ、そんな程度では効きはしない。この体より、こいつの方が戦いやすいかな?」
マルマはそう言うと「でろり」と顔をひとなでした。今度は「マルマ」は「ミーナ」の顔で冷たく笑う。しかし、ミーシャは母を見ても少しもひるむことなく術を放った。
「ダルーシャ・ナム・ホツ」
マルマの紅蓮の炎に勝るとも劣らない、炎の渦がマルマを包んだ。ためらうことのないその攻撃に、マルマの方がひるむ。
「ば、ばかな、おまえは母親を焼き焦がそうというのか……」
諦めない巫女
炎の渦により、散々に焼けただれた皮膚も自動修復し、マルマが再び立ち上がった。ミーシャはすかさず術を続ける。
「ダルーシャ・ナム・ルツ 嵐よあれ」
嵐とともに雷雲が現れた。ヒメカの術を駆使し、マルマが攻撃する隙を与えないミーシャ、この戦いにセイレも加わった。
セイレは「マーラ」の槍を構えるとそれをゆっくりと回しはじめる。その動きに合わせる様に上空の雷雲が稲光とともに巨大な渦になり、天空に集まり始める。それを確認したミーシャは、その雷雲を利用しさらに巨大な雷針を降り出した。
「オローシャ・ピリリカ」
最大の雷針がマルマめがけて放たれた。それはなっぴの体ごと貫いたのだ。遂になっぴの体は動きを止めた。うつぶせに倒れたなっぴの背中から二本の触手が伸び、ダーマに似た赤い顔が隆起する。それでもマルマはヒドラ・ボールの中のマイに嘲笑気味でこう言った。
「見ろ、この星の巫女どもの正体を、自分たちをあれほど助けてくれたこの娘さえ、足手まといになれば切り捨てることに躊躇しない。これがこの星の生命体の正体だ」
ヒドラ・ボールはふわりと浮き上がり、なっぴを救うために現れた「バジェス」、原始生命体に戻ったレムリアの虫人たちの中に吸い込まれ、まもなく消えた。
「それでいい、ヒドラよわしとともにこの二人の巫女を始末しよう。この星はもう一度作り替えなければならない。さあ今一度シュラの使命を思い出せ」
その時、セイレの声が響いた。
「エクタノーテ・エスメラーダ」
おそらく回復の呪文としては最大のものだ、呪文とともに、潰されたタイスケのカプセルから力強い鼓動が聞こえた。その鼓動をテンテンが聞き逃すはずはない。
「ムーア・レリル・オーラ」
すかさずテンテンが唱えたのは母「バイオレット」の念波攻撃だ。練り込まれた念波に苦しがるマルマはついに地面に倒れた。
テンテンは「レムリア」を信じていた。ムシビトの総意はイブ、つまり「マンジュリカーナ」を救うことだ。テンテンは母「バイオレット」が「カブト」を再誕させた時と同じ様に、マルマに対抗するものを再誕させるつもりだ。もし「彼」がなっぴをマンジュリカーナだと認めているなら、必ず現れるはずだと信じていた。テンテンは虹色テントウの力をここですべて使い果たすつもりだった。
「レム・メタモルフォーゼ!」
呪文とともに、テンテンの虹の原石が砕け散り、テンテンは虹のほこらの巫女「デュランタ」に戻った。
「ビィルトーラ・テラ・ヴィ・モールド」
続いてテンテンの呪文が辺りにこだまする。融合の呪文を唱え終わると、マイと由美子を追う様にテンテンもまた「バジェス」の中に消えた。