109.秘密の遊び場
秘密の遊び場
「私は、この空間に大地を集めた。ヒメカに似せた『タマムスビ』を応用して、でもこんなに広大な大地は呼び出すことはできない」
「ミーシャだったの、この大地を最初にここへ集めたのは」
セイレが驚いた。そして今度は香奈に頭を下げた。
「ごめんない、なっぴが何度も頼むものだから『アクア・エメラルド』を少しだけ使ってしまった。生き物までは生まれなくていい、となっぴに言われたし、実はほんの遊び場のつもりだった……」
「そうね、なっぴにとってもそれほど深い意味は無かったのでしょう。異界に王国を作ったリカーナを真似てみようとしただけのことだと思うけど」
「けど?」
シルティが聞き直した。シルティは、すでにアロマの姿から元に戻っていた。
「あなたたちが作った、この異次元の大地を新たなルノクスにしようと、目を付けたものがいる。虫人たちとの深い関わりを持つそれは、なっぴにシンクロすることができる、ニジイロテントウを利用しようと思いつく」
「テンテン、リンリンを利用しようと……」
「そう、その方法はなっぴの持つ再誕の力を利用して、この異次元に忘れ去られた大地を『新しいルノクス』として蘇えらせることだった。だけど直接テンテン、リンリンに命じたのではないわね。彼女たちはなっぴに伝えただけ、メタモルフォーゼ・プログラムを介して」
「ルノクスの再生は、お母様が計画していた。メタモルフォーゼのコマンドを使って……」
「マイ、この星は元々虫人たちの住める星ではないわ。この星の大気のままでは虫人は永く耐えられない。それを防いでいたリカーナの結界もほころび始め、少しづつ王国にも影響が起こり始める、女王ラベンデュラの判断は正しかったのよ」
「しかし、間も無くこのルノクスでも虫人は永く暮らしていけない事が分かったの」
「それが、虫人には肺の機能が発達していないという事なのね」
「そう、ミーシャ。この星の生き物は原始的な肺を複雑に進化させて、この地球の大気に柔軟に対応していった。その間に数多くの生き物は絶滅していった。適応できたもののみが生き残っていった」
「一言で言えば、一度虫人も絶滅しなければならないと?」
「タイスケの言う通り、悲しいけれどそれが運命だった」
「しかしそれがなっぴには許せなかった。何故なら、あの娘の周りの虫人たちはそれぞれ懸命に生きていた。彼らを見捨てる事があの娘にはどうしてもできなかったのよ」
ヨミ、オロチ、ラグナ、シュラそしてヒドラ。なっぴの守ろうとする虫人を取り上げ、絶滅させようとする彼らは実は「虫人を進化させようとしている」のだった。この地球で暮らしていけるように。なっぴもそれには次第に気がつく、だがそのために今、目の前の虫人達が絶滅していいわけがない。彼女の出した答えが、別の次元に虫人のためのルノクスを「再誕」させる事だったのだ。
なっぴは、リカーナ以上の結界をこの次元に張った。そして自分の体に取り込んだ虫人達の遺伝子情報を使い、新しいインセクトロイドを作った。そのインセクトロイドの名前は言わなくてもわかるわね、マイ」
「はい、私たちをここに導いたのは、目の前のサクヤ……」
「そう、そしてもうひとりなっぴの作ったルノクスを見つけ、少しずつここで育てていたものがある。最初にAIを作り出した者、その名はカグマ・アグル……」
「カグマ博士が、このルノクスを見つけた?」
「博士は消滅したと聞きます、香奈様?」
「いいえ、彼はずっとサクヤを見続けていたの」