102.青い星ルノクス
青い星ルノクス
再び、ルノクスに向って航海中の「amato2」の話に変わる。
「アマトがこのカプセルをルノクスに引き寄せる、それをヒドラ・シャングリラはしっかりと包み込んでいる。きっと彼等を守るつもりなのね、それは無駄なことなのに……」
ぐっすり眠っているセイレ、ミーシャ、タイスケそしてマイ。香奈に憑依したサクヤはカプセルの中で冷たく笑った。
拮抗する、由美子となっぴの戦いはやがて、なっぴの張った結界を突き破る。それでも二人の戦いは延々と続く。やがてはそれも終わり、勝ち残った影が遠くに見えた。その影はやっと気が付く、自分がこの星の「シュラ」となったことに。それが、誰なのか由美子は覗いてしまった……。
生き物は繁栄と絶滅を繰り返し、生き残ったものにはそれまでのさまざまな歴史が刻まれる。それが知恵となり、次の絶滅までの時間が多少延長される。ただそれだけのことだ。地球も例外ではない……。
四人は、なっぴの姿を見た。地下から噴出するマグマ、硫黄の匂いさえしそうな黒黄色のガス。その中に立ちつくすなっぴの顔にまったく生気は感じられない。呆然とするなっぴに四人は思う、あなたが「シュラ」だった……と。
「なっぴ!」
同時に四人が目覚めた。サクヤの物語も原始生命体の話も共有した彼ら、しかし「最後のシーン」はあまりにも残酷だった。四人に、それ以上言葉は続かなかった。サクヤは、話し始める。
「地球の未来は、ルノクスに似ている。あなたたちはちょうどルノクスから脱出した虫人と同じだわ……。すでにルノクスは創始の時期を終えている。さあ、じきにリリナが待つルノクスに到着するわ」
サクヤの言う通りやがて四人の眼下に青い星が見えた。それを見たタイスケが叫んだ。
「あれは地球、地球ではないのか?」
「まさか!」
ミーシャが目を見開いた。
「これは、地球なの?」
セイレがサクヤに尋ねた。
「いいえ、この青く輝く星はルノクス。創始を終えたルノクスです」
「信じられない、あの海、あの山の木々。今にも小鳥のさえずりが聞こえそうだわ……」
セイレは、黙り込むマイを見た。マイは一言も言わなかった。そして緑の草原に「amato2」が静かに着陸した。
「フィーン……」
カプセルのハッチが開き、外気がカプセルの中に入ってきた。セイレがアガルタのマオの洞窟で吸ったことのある、太古の地球の大気と同じくらいの綺麗なものだ。もちろん亜硫酸ガスも少ない。
「これがサクヤが親しんだ大気、虫人たちの住んでいた頃のルノクス」
「セイレ、この大気はオロスでも一度経験したことがあるわ、最大のオーロラが出現する日、生き物は何故かこの日、一瞬天空を見上げるの」
ミーシャがそう話しても、マイはただ黙っていた。一歩外へミーシャが出ようとした時、マイがたまらず声を上げた。
「外に出て行っては駄目!」
マイはハッチの前に立ちはだかりミーシャを止め、急いでハッチを閉じた。カプセルの中にはサクヤはすでにいない。なっぴの母「香奈」と「シルティ」が分離し床で気を失っていた。
「どう言うこと?」
ミーシャがマイを問い詰めた。マイは「わっ」と泣きだした。
「話して、あなたはこの星のイブなのでしょう」
泣きじゃくるマイに、セイレがなだめるように問いかけた。