101.最後の修羅
最後の修羅
「リリナに残されていた前世の記憶は、我のもとにすべて戻るべきものだった。ところがマルマはリリナを愛してしまっていた。彼女の体の中のそれを取り出し、遠く持ち去った」
「それを使って再誕させたのが、リリナ・スカーレット・サクヤと名付けたインセクトロイド。しかし、それはマルマの愛したリリナではなかった」
「彼女に残っていたイブの記憶は凄まじいもの、その記憶はこの星の神を超えていた」
スサノヒドラは笑った。
「そうかマンジュリカーナよ、お前には解るのだったな。マンジュリカとは『はじまりのもの』タオの力を表したものだと」
「その寄り代として選ばれたのがマンジュリカーナだったのね」
「リカーナ、マンジュ、リカ、香奈、そしてお前はその試練を超えた。ついにマンジュリカの寄り代として、選ばれしものになった。だがその力はお前には不要のもの、既にお前たちは限りある生き方を選んでいる、もはや再誕など必要ない」
「余計な力は持ってはならない。それが私を浄化しようとする理由だと言うのね」
「この星の浄化は終わり、既に神は不要だ。アマテラス、ツクヨミそしてアマオロスは天界に上った、今度はマンジュリカーナ、お前の番だ」
「すでに彼らはこの星の未来を見ているはずだ。アマトが開いた今、彼らにとってそれは避けられない」
「この星の未来を見た……」
「何度も繰り返す繁栄と絶滅。そのきっかけをいったい誰が与えていると思う?」
「ヨミ、オロチ、ラグナ……」
なっぴの脳裏には「創始の地球に戻す」というキーワードがあった。それは何度も聞いた言葉だ。そう答えた彼女にヒドラはこう言った。
「そうだ、そしてそれを阻止してきたのがおまえたち、マンジュリカーナたちだ」
「その絶滅がこの星に再び起こるというの?」
「その通り、それをアマトを開きおまえの仲間たちに見せている。サクヤとリリナ、二人のイブが……」
「何故その絶滅を避けることが出来ないの?」
なっぴの疑問は当然だ、そのために「マンジュリカーナ」はこの地球にいるのではないのか、マンジュリカーナが阻止出来ない相手とはいったい誰なのかと彼女は思った。
「あなたは、この星を絶滅に導くものを知っているのね」
「……そうだ、マンジュリカーナ」
「その未来を見た彼らは、絶滅の未来をどうすることも出来ない。彼らは連れ去られたのではなく、助けられたということなのねヒドラ」
「それは彼らが決めることだ、少なくともルノクスは絶滅が終わり、創始を迎えている。新たなイブはリリナやサクヤと違い雌雄異体のヒドランジア」
「マイがイブとしてルノクスを作っていく。それはわかっていた、でもこの星が絶滅するなんて事、絶対にありえない。私を騙そうとしても無駄よ、スサノヒドラ」
なっぴの右手のキューが輝き始めた。それを握り直してなっぴが構える。
「さあ、由美子の体を取り戻すわよテンテン」
テンテンはしかし、何も答えなかった。
「この星の未来は絶滅に向かっている……」
「由美子、その声は由美子!」
「なっぴには見えないのね、この地球の未来が。スサノヒドラが言う事は事実、私と戦うつもり?」
「たとえ、その相手が母だろうと私は虫人とこの星を守る」
由美子の持つ黒龍刀が漆黒の霧を吸い込む。再び二人は互いに戦う体勢を整えていった。
マンジュリカーナとフローレスが互いの龍刀を何度もぶつける。その度に周囲に閃光と共に衝撃波が広がっていく。その一瞬でいったいどれだけの生命が消えていくのだろう。なっぴの張った結界の中には小さな生き物がいた。その小さな命が次々と消滅していく。なっぴはそれに気がつかない。
「あなたが、この星を破壊する、最後のシュラ(修羅)なのよ」
由美子は、小さくつぶやくとひとしずくの涙を流した。