100.浄化の理由
浄化の理由
「ナナは嘘をついたかも知れない、だがそれは正しかったろう。サクヤはナナによって最悪の悲劇を回避し、カグマ・アグル・サクヤのまま、静かに完全にこの星で消滅してしまった」
「そう、サクヤはナナにこれからも虫人たちを守ることを伝えて、この星で消滅してしまったのね」
「最後にサクヤが感じたのが、再誕の限界なのだ。記憶と共に次の命は生まれてはならない。記憶と共に無に帰するべきなのだ、あのエメラルドへの思いは大昔のサクヤ、スカーレットのものだ。カグマ・アグル・サクヤのものでも、ましてやインセクトロイド・サクヤのものでもない」
「ナナがオロスに向かったのは、それがサクヤだけの思い出だとわかっていたから……」
「そうだ、サクヤはこの星で生きている、今の自分をやっと取り戻した。インセクトロイドがサクヤとなった瞬間だった。そのサクヤの思いが浄化の刀『白龍刀』となり、あのオロシアーナに伝わったのだ」
「サクヤの肋骨がオロシアーナの白龍刀だったのね」
「ナナ、虫人はこの星にきっと生き残っている。私が作ってしまったシュラから虫人を守ってちょうだい……」
ナナはサクヤの最後の願いを聞き終えると、天空のシャングリラを抜け、もう一度パピィの住む異界に向かった。
「空色シジミよ、もし虫人たちに危機が訪れた時は、その力を使いなさい。そしてあなたたちを救い、導くものの現れるまで諦めてはなりません。私を浄化して下さったお方との約束です」
ナナはそうパピィに告げ、七つの宝玉にその身を砕くと、小さな祠に消えた。その「七つの宝玉」を守り続けた虫人が虹色テントウの一族だった。この星の塩水でも溶けなかった、サクヤの肋骨、それはナナにより「七龍刀」「黒龍刀」「白竜刀」「万龍刀」に分けられ、サクヤの訪れた「フローラ」「虹の谷=後の次元の谷」「オロス」「アガルタ」に収められた。
「十握剣は、サクヤの肋骨、そして虹の原石はナナに込められたヒドラのマナだったということなのね」
「マンジュリカーナ、お前は自分が何者かを考えたことがあるか。お前はこの星の歴史を覗き、こう感じているはずだ。マルマの生んだ原始生命体はイブによって再誕を繰り返すたびに、前世の記憶の受け皿としてヒドラを選んだ。しかしリリナとサクヤは気付いたのだ、再誕のたびにヒドラの悲しみがさらに深くなると……」
「まるでルシナのように……」
「リリナはいつからか再誕の度に記憶の受け皿として今度は自分の身体を使い始めた。そのためリリナはそれまでのイブとは違い、ついに再誕することはなかった。リリナもまたエスメラーダと同じく永遠の命を持っていたのに……」
「リカーナは、すでにイブではなかったのね」
「虫人の王女が出芽するまで長い時がかかった。そして王女リカーナはこの星の最後のエスメラーダ、ラミナと同じように、運命の若者に出会ったのだ、それはゴラゾムという名の若者だった……」