1.悪魔の再誕
失踪した母「香奈」を救うため、海底王国「アガルタ」から再び地上に戻ったなっぴ。壮絶な戦いの末、サクヤの力を使い「インセクトロイド」をついに倒す。これで長い戦いは終わったのか、いやそうではない。
なっぴの「最大の試練」が始まる……。
1.悪魔の再誕
「母さん、やっとシュラを倒せたわ、サクヤのおかげで。皆の力で……」
なっぴは一目散に母の元に駆け出した。
しかし……。
「なっぴ、今のあなたはまだ、私に触れてはいけない」
香奈はそう叫ぶ。もちろんその声はカプセルの中だ、なっぴには聞こえるはずもなかった。彼女はサクヤとなり、自分の「分身」とも言えるシュラを破壊した。その体にはゴラゾムの力をともなったヨミの力さえ持っていた。それは電気的に言えば「帯電」の様なものだ。
そのヨミの力はシュラの体に残っていた香奈のマユに吸い込まれる様に消えていく。そしてヨミの力は壊れたはずの「再生装置」をも起動させる力となった。カグマの作ったAIは粉々に砕け散り消滅していたが再生装置は機械音とともにAIを再生しようと動き始めた。機械音が響く……。
「……コレヨリ、移住先ノ探査ヲ開始スル。知的生命体ガ存在シテイル場合ハ、ソレヲ殲滅セヨ……」
シュラの再生はまるで再誕のプロセスと同じだった。ゴラゾームに覆われた多くの細胞は細く強靭な糸状に結びつきさらにひも状に変わる。ダーマの力をも吸い取り、糸は縦横に編み込まれていく。
それが香奈のカプセルを包むと再生装置とともに胸の奥へと移動していった。再生装置は次にはAIを頭部に押上げる。再生装置とAIをつなぐ太い管は、何対もの少し細い管を伸ばしその数を増やしていく。それだけではない、その一本一本に新たなゴラゾム細胞が次々と引き寄せられていく。
その組み合わせにより形状、色、性質が特徴づけられていく。そのプロセスを『なっぴ、由美子、マイ、テンテン、ミーシャ、セイレ』の6人は声も上げずに見ていた。
「これは、私たちが再誕と呼ぶものではないの? こんな事がシュラの中で起こっているなんて」
なっぴがやっと声を上げた。それに呼応したかのように、再びシュラは動き始めた。シュラは両足を再生すると立ち上がり、今度は次第に腕が再生されていく。なっぴには完全には再生されていないその胸の中にちらりと「香奈」のカプセルが見えた。それもやがて細いゴラゾム細胞の糸に幾重にも巻かれて遂に何も見えなくなった。
ふりだし
ふりだしに戻ってしまった。役目を終えたサクヤは消え去り、シルティ、リンリンもレムリアに戻ってしまっている。シュラをスキャンしたテンテンがなっぴにこう伝えた。
「なっぴ、今度のシュラはインセクトロイドとは違うみたいよ、確かな生体反応が感じられる、これはそうね、いつかの『ヨミ』に似ている……」
「そう言えば、再生のスピードが遅いわ。まだまだ再生には時間がかかりそうね」
なっぴはキューを打ち込もうと一歩シュラに近づいた。その時、シュラの胸が開き何かが体外に放出された。近づくなっぴは足を止めた。足下に「ビタン」と落ちたのは、ひからびかけた「ダーマ」の体だった。なっぴはそれを思わず拾い上げた。
「これがあのダーマだなんて?」
「うううっ、タイミングを逃した。俺の計画をAIは見抜いていたのか……」
シュラの体内で自爆するというダーマの計画は失敗した。ダーマを危険物と認識したシュラのAIは、瞬時にそれを体外へ放出した。その姿は彼女の知っているダーマの十分の一にも満たない姿だったのだ。寄り代からはがれた『ラグナ』は消滅するしか無い、なっぴがマイに向かって叫んだ。
「マイお願い、ヒドラ・ボールをダーマに使ってやって」
「こんな奴をどうして助けるの?」
「まだ聞きたい事がある、それにダーマは本当の闇ではないの」
なっぴにそう言われ、マイはヒドラ・ボールを使い、ダーマを結界で包んだ。外気に触れるのを防がれたダーマはなんとか消滅を免れた。しかしダーマは無念そうにこう言った。
「無駄だ、シュラは俺を排除した。自動修復が終わり、本来の使命のまま動く。もはやそれは誰にも止められない……」