表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

第3話 シティー・オブ・エイト


 ファミリー。


 この単語は本来は家族と言う一般名詞だが、あるところではその意味が大きく変わる。


 それはマ○ィア。

 つまり、イタリアのシチリア島を起源とする組織犯罪集団のグループ名だ。方向性は少し違うが、本質的には日本のヤ○ザと同じ、名実共に裏社会のメイン役者である存在だ。


 もちろん、俺が聞いた【ファミリー】と言う言葉の意味が、【家族】の意味を持っている可能性もあったが、ビックボスと言う言葉と、食事中の会話でその可能性はほぼゼロになった。

 この食あり酒あり色ありのサロン【夜咲く黒薔薇】の支配人である、スキンヘッドの傷顔、テオ(・・)さんが自慢気にあれこれ説明してくれたお陰だった。


 聞いたことを整理するとこうだ。


 500年前、【ヒスラント王国】の王都【ラピアット】を攻める為の重要拠点だったマルパスが壊滅する時、都市から逃げだした元マルパスの住民を纏めて新しくマルパスを立ち上げたのが、現在マルパスを実質支配している【八家】で、その中で一番の勢力が【トーリアス家】。


 今、【八家】の領域は裏の世界だけでなく、都市の経済、政治にまでその手を伸びていて、中央からは半分自治都市として認識されているらしい。


 数十年おきに、太守が中央から派遣されてくるけど、彼らが中央から要求されるのは【八家】との伝令役だけだそうだ。

 

 事実上、太守部の人事権を握って、税金の使い道を決めているのが【八家】だから、太守がやることはそれぐらいしかないのは仕方ないことだろう。

 それを元に取り戻そうと試した太守もいるにはいたそうだが……その人の末路(・・)は聞かなかったことにしたいから、ここまでにしておこう。



 兎に角、そんな理由で、今のマルパスはこういうアダ名で呼ばれるようになったそうだ。


 八家(はっか)(みやこ)


 

 普通はこうなったら、完全に無法都市化してもおかしくないところだが、未来を見据えた【八家】の長たちが、一般市民の生活に武力で介入することを禁止する条約を結んで、表の世界でまともな経済活動に専念することにして今は他の都市より安全で豊かな街になったそうだ。


 ここまでがテオさんから聞かされた話だったが……この話を丸呑みにすることはできない。

 今聞いたことは全部、組織の人間の言い分だ。

 『言っていいこと』だけ言って『言って悪い』ことなど何一つ言ってないのは間違いない。

 

 『言っていいこと』を信じるだけでも俺には荷が重い。

 政治にまで伸ばしているファミリーの手が、裏の経済だけでなく表の経済まで届いていると言うことは、簡単に独寡占できて、誰にも咎められないと言う意味に他ならない。

 そんな環境の中で、マ○ィアに経済的倫理観を求めるなんてバカバカしいにも程がある。


 それに、徴税は政治の中でも最も公正さが必要とされるモノだ。

 そんな徴税権をファミリーが握っている。その上、税の執行権まで……。

 考えるだけで頭がおかしくなりそうだ。

 

 つまり、


『俺はロガンさんに付いて来たことを死ぬほど後悔しているのだ!!!!』


 って、口が裂けても言えないよね……。


 今はその組織の人に、何から何まで世話になりっぱなしなんだし……今まで一度も関わった事がない裏世界の住民と接点ができたしまった事が、どれだけ怖くっても言えるわけがない。


 兎に角。

 もう俺はマルパスでギルド登録してしまったから、税金はここに払うことになったわけだし、指名依頼と強制依頼の優先権もマルパスに握られてしまった。

 他で仕事をするのは問題ないが、一年に一度税金問題でマルパスに戻る必要があるし、ただの指名依頼なら俺に拒否権があるけど、強制依頼はギルドが断らない限り、いやでもやらなきゃならない。


 だが、果たしてこの都市のギルドが【八家】の対してどれ程の発言力を持っているだろう……俺の身分保障の件をすんなり通したのを見ると、余り楽観はできそうにないんだよな……。


 はぁ、憂鬱だ……本当に……。


「テオ。お前の話のせいで客人の食事が進まんではないか。少し静かにせんか」

「あ、は、はい!すみません、会長!!」

「ワシに謝ってどうするのじゃ!客に謝れ、客に!」

「あ、いいえ。俺は大丈夫です」

「クウヤ。冒険者はちゃんと食わんと、生きてゆけんぞ?」


 でも、ロガンさんって、何故か俺に親切なんだよな……。

 マ○ィアのボス、都市の政治にまで関わっている人なのに……何故だろう?

 

「あのぉ、ロガ……いいえ、会長。一つ聞かせて頂いてよろしいでしょうか?」

「ロガンさんでいい。で、何が聞きたいんじゃ?」

「何故、俺にここまで親切にしてくれるのかがどうしても気になりまして……」


 少しおどおどしながらも、気になっていたことを聞いてみる。

 すると、一気に周りの空気が重くなってきた。

 これは、初めてロガンさんに会った時に感じた威圧感と同じだ。

 正直これ、かなり怖い。

 だけど、俺何か聞いてはいけないことを聞いてしまったんだろか……?


「これが理由じゃ」


 え?まだ何も聞いてませんけど?

 

「……どういう意味ですか?」

「ちょっと周りを見てみなさい」

「??」


 何が言いたいのかさっぱり分からないけど、一応言われた通り周りに視線を向けてみた。

 そして、やっと話が理解できた。


 周りの皆が固まっていたのだ。

 俺とロガンさんとテーブルを囲んで座っているテオさんだけではなく、ホール内にいる全員が顔色を青くして、固まったままこっちを見ている。

 まるで、呼吸が出来なくって苦しんでいるような顔色だった。


「これで分かったじゃろう?」


 その言葉と共に、すっと空気の重さがなくなる。


 だが、確かに理解できた。

 初めてロガンさんに会った時、俺に聞いてきた「口が聞けないのか?」は、「口が聞けない人か?」と言う意味ではなく、「遺跡漁りに来たのだろう、弁明してみろ」と言う威圧の意味だったのだ。

 だけど、俺がロガンさんの威嚇に平然と返事していたから、俺に興味を持った。

 

「ワシの威嚇の中で普通に話ができる人間など、ワシは4人しか見ておらん。じゃが、若造のお主にそれができる。正直面白いと言うより驚いた」

「ただ、俺が鈍感なだけかも知れません」

「さっき、皆が一瞬で黙りこんだのに気づいてなかったじゃろう?なのにワシの質問にはしっかり反応したんじゃ。それだけワシに集中しながらワシの威嚇を平然と耐えておったのじゃ。本当に鈍感ならまず、いきなり静かになった周りの異常さに気がついていた筈じゃ」


 これも、転生特典か何かかな?

 威圧に耐える力……【対威圧】、みたいな。

 でも、さっき森で自分のステータス見た時にそんなモノなかったけど……。

 まぁ、俺は気づかずにロガンさんに自分の異常さをアピールしてしまったって訳か……。


「確かに、普通には見えなかったんでしょうね……でも、それだけじゃ親切の理由としては足りないと思いますけど」

「お前、本当に肝座ってんな……アレに耐えてまだ、会長と普通に口きけるのかよ……」


 あ、テオさんが復活した。


「一番大きい理由はワシの道楽じゃ。それと、」


 やっぱり他にも理由あるんだ。


「お主が冒険者になると言ったからじゃ」


 冒険者……それが理由なら……ああ、そうか。

 やっぱり、マ○ィアが牛耳ってる街だから、ここの税率が他より高くって、ここで登録したがる冒険者が少ないんだ。

 冒険者は色んな方面で依頼を行う、何でも屋みたいな職業だが、主な仕事は魔物狩り、つまり魔物素材の供給と、都市間流通を担うから、人数が減ると都市が停滞する可能性が……って、あれ?

 それにしては街の雰囲気かなり良くなかったかな?

 ギルドでも結構人多かったと思ったけど……。


「マルパスは低い税率(・・・・)の影響で冒険者の数だけは多いんじゃが、その多くが低い税率を狙ってここに来たヘタレ共じゃ。そこでお主みたいにワシの威圧に耐え得る人間が冒険者になると言ってきたのじゃ。無下にはできんじゃろう?冒険者はワシの一家に取って供給者であり、消費者でもあるらのぉ」

「え!?」


 低い?マ○ィアが牛耳ってる街なのに!?


「そう驚くようなことではなかろう。さっきテオが説明した通り、マルパスは半分自治都市じゃ。中央からの支援が少ない分、中央に渡す税金も減る。その分、住民の税金も減って当然じゃ」


 どうも、信じられない話だ。

 果たして人間の欲がそんな政治環境だけで左右されたりするのだろうか……。


 でも、まるっきり嘘だとも思えない。

 ロガンさんが俺に嘘をつく理由などないだろうし、例えあったとしても、こんなに調べれば直ぐに分かるような嘘をつくはずがないから。


 ならば……ああ、そうか。

 やっと分かった。

 俺はロガンさん、いやファミリーのことを政治に身を置くマ○ィアのように考えていたけど、その前提が間違っていたのだ。


 ファミリーは、企業論理で政治をする、政治企業(・・・・)なんだ。


 それも薄利多売(・・・・)を経営理念に持つ大企業。


 つまり、こうだ。

 100の税金を払う10人がいる街と、10の税金を払う100人がいる街。

 納税の安定性はどの街が上か?

 答えは当然、後者だ。

 長期的に見ても100人がいる街の人口増加率の方が当然高い。よって納税者も増加するわけだから、後者を選ぶのは極めて合理的な判断だ。


 これだけではない。

 テオさんの話通りなら、ファミリーは市場を殆ど掌握している。人が増えれば消費も増える。消費が増えれば市場を掌握しているファミリーの利益も増えるのだ。


 それに冒険者は、ロガンさんが言った通り、消費者であり生産者でもある。この都市で活動する冒険者が多くなると、他から交易で得る品より安く物が買えて、他の都市より安く市場に流す事もできる。

 その分、ファミリーの利益も上がる。

 

 正直、びっくり仰天するほどに、よく出来たシステムだと思う。

 だが、この都市のシステムは、欲と言う砂の上に建てられた砂上の楼閣なのは間違いない。

 人間は欲の動物だし、永遠に満たされる欲はない。

 

 極端な話だが、支配者である彼らが欲を丸出しにしたら、この都市の人間の多くが苦しい生活を強いられることになる。

 まぁ、支配者のモラルによって民の幸不幸が決まるのは、ここだけの話ではなく専制政治全般の問題点ではあるけど……。

 


 日本にいた頃から思ってたことだが、人間と言う生き物は欲に良く釣られる。

 個々人が集まった組織はその傾向がもっと顕著だ。


 営利組織はもちろんのこと、非営利組織でさえも、人は組織の中に入って時間が経つにつれ、一般的モラルよりも組織の論理を優先するか、その論理を上手く利用して自分の欲を満たそうとする。


 正直、組織体系自体が人間の欲望を増幅させる何かを持っているとしか思えなかった。


 

 14の時、ニュースで見た正義の内部告発者が組織の中で裏切り者扱いされる話を聞いた事がある。

 一般的モラルの上に立つ組織論理(・・・・)(決して組織倫理ではない)が、まるで合理的な考え方ように認識される。

 それがどうしても納得できないと、一緒にそれを見ていたオヤジに言ったら、オヤジはこう答えてくれた。


「それを納得することが大人になることだ」と。


 だが、死んでもそれが理解できそうになかった俺は、その時、大人になるのを諦めた。

 歳を取って大人になっても、夢と理想と空想を語ることが許されるマンガやゲーム業界で生きようと思った。

 だが、色んな事件のお蔭でそれすらもできなくなってしまい、死んでこの世界に転生した。

 

 はぁ、過去を掘り返すのはもう辞めたいのに、気付かずにまたやってしまったようだ。

 

 要は、俺は組織が嫌いだってことだ。


 この都市のファミリーが何時まで、何処まで今の状態に満足していられるのかは分からないけど、今聞いたシステムは組織嫌いな俺にとっては好都合だ。

 低い税率に、冒険者としての当たり前の生活が歓迎される上に、国からの干渉も少ないと言う、この上ない環境。


 無論今日は初日で、今から自分の目で確かめていく必要はあるけど、別にマ○ィアが牛耳っている街だと最初からおどおどする必要はないと思う。だから、


「ロガンさん。色々ありがとうございました。食事も終わりましたし、早速仕事がしたいですので、この辺で失礼させて頂きます」


 さっさと行って仕事しよう。

 遅くっても明日までは宿賃ぐらい稼げないとダメだ。15分の睡眠で体力は問題ないとしても拠点は必要だから。


「そっか。では、頑張りなさい、クウヤ。何時また会えるか分からんが、ワシが信じて指名依頼を任せられるように成長するのを期待しておるぞ」

「はい!頑張ります!」


 生活が安定してきたら、ロガンさんに何か恩返しをしよう。

 縁を深めるつもりはないけど、借りを残しておく気もないから。






 【夜咲く黒薔薇】を出てギルドへ足を運んだ俺は、時間と関係ない常時依頼を請け負ってギルドを後にした。

 

 俺が受けた依頼は《パヤン草》と《マルリンデ花》の採取。

 もう夜だし、都市の外は危険かもしれないが、残念ながら街中でできる依頼もなかったし、まだステータスポイントがだんまり残っているので、それを少し使って幾つかスキルを取っておくつもりだ。

 

 それに確認しておきたいのもあるわけだし……。


 



 西の城門を潜って、少し広い草原に出る。

 もう日は完全に沈み、気温も少し下がってきた。

 大きくって明るい満月が夜空と周りを照らしてくれていて思ったより暗くはない。

 

 周りに誰も居ないことを確認した俺は心の中で「ステータス」て呟いて、画面を開いた。


 「やっぱりある……」


 目の前に現れた俺のステータス画面、そこに俺が予想していたモノがあった。


 アビリティ【恐怖耐性2】。


 【アーデロス英雄伝】には耐性系のアビリティはなかった。いや、ここに来る前に確認したスキル・アビリティ一覧の中にも耐性系のアビリティなんてなかった。

 にも関わらず、俺のアビリティの中に入っている。


 つまり、俺が取るモノ以外にも、隠されてるアビリティかスキルがある。

 もしくは、俺がやることにつれて、新しく作られるようになっているってこどだ。

 

 やばい!

 興奮してきた!


 俺が最初に恐怖を感じたのはきっとロガンさんに威嚇された時。つまり、あの一瞬で耐性のアビリティが取れたことになる。

 そのたった一回の経験でだ。


 基本能力値はステータスポイント1当たり1、スキルはランクごとに違うが最低でも5。アビリティは最低でも10は必要だ。

 つまり、俺は10以上のステータスポイントを一瞬で稼いだことになる。


 いや、落ち着こう。

 まずは原因の把握だ。

 

 こんな事が起こった原因は大きく三つに絞られる。

 色んな要因が重なって起こった偶然な出来事。

 【恐怖耐性】もしくは耐性系だけに限られた成長補正。

 俺の【経験値ブースタ】の影響。


 偶然の検証は今のところ無理。

 耐性系の成長補正なら、他の耐性を確認する必要があるが、さっと思いつく耐性は【病気】【呪い】などの忌々しいモノだけだ。そんなモノを今直ぐ確認する方法なんてあるわけがない。もし確認する方法があったとしても、そんなこと、絶対試してみたくない。違った時は大事になるわけだし。よって、コレもパスだ。


 まぁ、一番確認しやすい上に、何より疑わしいのは【経験値ブースター】が現実世界に適応される時のバランスが崩れてしまったって説だけど……。


 今オレが持っているスキルかアビリティの中で、確認の為に手っ取り早く使えそうなのは《魔力感知》と《鑑定1》か……って、あれ?

 《魔力感知》がMAXになっている。

 俺これ取る時、間違ってMAXにしてしまったか?確かに3ぐらいしか取ってなかったと思ってたけど……。


 MAXじゃ成長しないんだろうし、残るのは鑑定だけか……。

 

 だが、これが成功すれば……些細な行動が全部スキルかアビリティになって、経験値ブースターによって成長していけば、俺は……。

 ……俺は、どうなるんだ?


 まさか、異世界最強系ネット小説に出てくる、俺TUEEEみたいな人間になるのか?

 なんか……嫌だな……。

 ある程度強くはなりたいけど、他人から期待背負われるか、自分の力隠しながら生きるとか、強すぎる力のせいで化物扱いされるとか……やっぱり嫌だ。


 あれ?ちょっと待ってよ?


 これが俺だけの能力って誰が言ったんだ?言ってないよな?

 ならば、他の人も俺のようにスキルとかアビリティ簡単に取れる可能性だってあるのではないか?

 ってことは、今の俺って一般人より弱い……いや、これからも一般人より弱いままかも……。

 いや、雑魚モンスターよりも……。


 だめだ。混乱してきた。

 

 兎に角、今は検証だ、検証!!


 どうせ、依頼で《パヤン草》と《マルリンデ花》探さないとダメなんだし、鑑定しまっくるぞ!!


 


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ