転校生来たる!.5
「あれあれェ……もしかして、二人はもうお友達?
ああッ、さすがは“霧ヶ島中学の良心”と呼ばれるキョウスケくん!
道に不慣れな転校生に、さては親切にしてあげたなあ。このこのォ!
まったくいつの間に……見かけによらず、転校初日に手が早いんだから」
「キョウスケは、絶対そんなことしないから!」
ムッとしたミーナは、キョウスケと少女を見比べて、
ニヤニヤしっぱなしのアサギを睨みつける。
「そんなに妬かない、妬かない。
ただの親切でやったのよねー、キョウスケくん? それで……
二人の馴れ初めは?
この島で、ロマンティックな場所って言ったらどこかしらー♪」
「アサギッ! あんた、イイ加減にしなさいよッ!」
「おお恐い。ジョーダンよ、足立さん。ホント、ジョーダンだから」
それで? と噂好きの女教師はまったく懲りず、
そこに佇む美少女に好奇な眼差しを向け続けるのだった。
今、キョウスケの前に居る少女――
霧ヶ島中学校の制服を着た彼女は間違いなく、
あの時の『銀の少女』だった――
「はあ……本当に綺麗だよ、ミーナちゃん。
まるで、物語のお姫様みたいだよォ」
夢見心地に呟いたのはマキだ。
彼女はうっとりとして、
遠い異国の血を引く少女の、整った顔立ちをずっと見上げていた。
「先生」
「ハ、ハイッ!」
危険を察したようだ。
アサギは“銀の少女”の声に、過敏に反応する。
「ごごご、ごめんなさいッ! さすがに調子に乗り過ぎましたァァ」
「自己紹介、してもよろしいでしょうか、アサギ先生?」
「ももも、モチロン! ささッ、張り切ってドーゾ!」
銀の少女がチョークを手に、黒板へ向かう。
そして流れるように『草守レイト』と記す。
「くさ、くさ……おいキョウスケッ、あれは一体なんて読むんだ?」
「かみ、です。草守レイト。珍しい名字でしょう?」
キョウスケの耳元で、こっそり囁いたヤストラの声は、
はっきりと銀の少女の耳まで届いたらしい。
「草守さん……“レイト”って名前も、とっても素敵。
女の子なのに男の子っぽくて、まるで物語に出て来る騎士様みたい……」
すっかり自分の世界に浸っているマキは、
憧れの視線を“銀の少女”に注いでいる。彼女が愛読する
少女漫画のヒロインに、どうやら似ているところがあるようだ。
それを横目にするミーナの表情は、より険しくなる一方だ。
「あらあら、すっかりクラスのマドンナね。じゃあ、自己紹介はそれぐらいで、そろそろ一時限目の授業を始めまーす。草守さんは席に着いて――」
その広い教室には、
四つの机と椅子と、古びた教卓があるばかりだ。
「はあ私ったら……草守さんの机と椅子、運び入れるの忘れてた」
アサギは大げさにガックリと肩を落とすと、
「机とか持って来る」と言い残して、とぼとぼ歩き出した。
「お、俺が行くよアサギ!
ほら彼女、ずっとそこに立ってなきゃいけないじゃん。
それってすっごく気まずいだろ?」
その提案を聞いたアサギは、驚いたようにヤストラを見ていた。
それから見る見る満面の笑顔になると彼女は何度も頷いて、
精一杯の感謝の意をヤストラに示していた。
「じゃあヤストラくんが来るまで、草守さんは、
彼の席を少し借りちゃいましょう。さあ遠慮しないで。
どーんと座っちゃって。ヤストラくんのことだから、
椅子が少し汗ばんでいるかもしれないけれど、その辺は我慢してね」
そして銀の少女は、すっと傍を通り過ぎて、
ごく自然にキョウスケの隣に座った。
柔らかな風が吹き抜ける。
途端にキョウスケの隣から、嗅いだことのない花の香がした。
「仲良くしてね、キョウスケくん」
――ドクン!
なんと、
彼女のか細い左肩に“小人”がちょこんと乗っていた……。