転校生来たる!.4
こんな話が、いつまでも書きたいのに…どうして、“そっち”の方向へ行く?
いっつもいっつも(グチ愚痴グチ…)
人には視えぬモノがよく視えた。
父は黙って頷いた。
それを母は「幻です」と疑った。
祖母も、父と同じく頷いた。
やはり、“そういうモノ”だとキョウスケは理解している。
他所より嫁いできた母には決して分からぬ。
それは、ヒトには視えぬ、“神様”なのだ。
「今日は皆さんに、百点を超える素敵なお知らせがありまーす」
そのだだっ広い教室には、
ぽつんと、たった四人の生徒が机を並べている。
クラス替えはもちろん、席替えすら行われた例はない。
中学の三年間――いや、小学校の六年間を合わせると、
“九年”まったく変わらない顔ぶれだ。お互いを知り尽くしている、と
言っても彼らの場合、過言ではない。
確かにミーナの言う通り、“その女”に化粧ッ気はない。
ブラジャーの透けた半袖シャツと、
どこで買ったのか分からない、小豆色のトレパンが彼女の普段着だ。
「なあんかシラけてる? ああー、もしかして戸惑っているのかなあ。
やっぱり入学してから、ずーーーーっと同じクラスメイトってところが、
閉鎖的な雰囲気が漂ってしまうイチバンの原因よねえ。
そんな彼らに教師の私がしてあげられることは、
ちゃんと皆が仲良くなれるキッカケを作ってあげること!
――よし! 頑張るのよ、私ッ!」
教卓を挟んで生徒たちと対する女教師は、
気を取り直してもう一度声を張り上げた。
「えっとォ、なんと今日はクラスの皆に百点を超える素敵なお知らせが!」
「あのさあ」
呆れた様子でヤストラは、
今日もパワー全開の、砂森アサギの手綱をグイと締める。
「お知らせも何も、もう学校中が知ってるってアサギ」
生徒から呼び捨てにされて、
若い女教師は眉を瞬時にひくつかせる。
「転校生だろ、アサギ」
「……安井くん。アサギ、“先生”でしょアサギ“先生”」
「もったいぶらないで、早く紹介しろよ、アサギ」
すると女教師は白いチョークを引ッ掴むと、
だらしなく机にもたれ掛かるヤストラ目掛けて思いッ切り投げつけた!
「あ、あああんたはゼロ点ッ! ッていうか、マイナス百点ッ!
シャツの裾をズボンに入れて出直してらっしゃいッ!
皆さんも、仲良くしてくれるのは嬉しいけど、
しーっかり先生と生徒の“ビミョーな距離感”を自覚してくださいね!」
「なあんか、気合入ってるゥ」
「アサギちゃん。きっと、いいところを見せたいんだよ。
ところでミーナちゃん? アサギちゃんと私たちの
“ビミョーな距離感”って、どんな距離?」
「はあい、そこの二人も、おしゃべりは止めて静かにしてください。
百点を超える素敵なお知らせがあるって言ったでしょう」
「だーかーら、知ってるッつーの! 自分が教えたんじゃねえか!」
「痛ッ」とキョウスケの隣で呻き声が上がる。
たった今、眼にも留まらぬスピードで、
アサギ必殺のチョーク投げが決まったのだ。
「あああ……私の素敵な前フリが……もういいや。
じゃ、もう勝手に入ってきてー」
――ドクン。
キョウスケの腹の底が、不思議と熱くなる。
腰まで伸びた美しい銀の髪。
瞳は至高の宝石を思わせる碧。
そして、透き通るような白い肌――
「よろしく、キョウスケくん」